「リトル・フォレスト」

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五十嵐大介さんが書いた、マンガを原作として、
昨年の8月末に、森淳一監督で制作された映画です。
静かな里山で、米や野菜を手作りしながら暮らす、
若い女性(いち子)を描いた、静かな映像がとても美しい。
こうした田舎暮らしを始める、若者の姿を描く映画は、
今までもありましたが、どこかわざとらしかった。

ところがこの映画では、一人の女性が成長と共に、
一旦は田舎の家を出て、都会で男性と暮らすのですが、
自分の居場所を見つけることができず、田舎に帰ってきます。
その辺の事情は深入りしないで、さらりと流しながら、
戻ってきた田舎集落「小森」の暮らしが、丁寧に描かれて、
田舎暮らしが説明ではなく、実体験として伝わってくるのです。

季節に合わせて作物を作り、自然の森からも恵みをいただく、
そんなあたりまえの生活ですが、食生活は奥深く描かれ、
いのちを食べる事への思いが、荒立てることなく映し出される。
その思いは、幼なじみの友人によって言葉にされますが、
この映画では、言葉よりも映像が圧倒的に強くって、
出てくるレシピは、自分でも作って食べてみたくなるのです。

町で売られている商品としての食べ物と、自分で取って、
あるいは自分でいのちを奪って作る、食べ物との違いが描かれ、
言葉による説明ではなく、実感として田舎暮らしがわかってくる。
古い小さな家の回りには、豊かな自然が広々とあって、
そこを歩いて回るだけでも、様々な食材が手に入る暮らしは、
僕自身が憧れた豊かな暮らしを、見事に映像にしているのです。

日本で自然を描くには、四季を描く必要があるからか、
この映画では春夏秋冬に、それぞれの編集があって、
今回僕が見たのは、「夏/秋」を描いたものだけでした。
見終わったあとに出てきた、「冬/春」の予告編によると、
それは2月14日に、ロードショー公開されると言うことなので、
今から待ち遠しいような、ゆっくりと見たい気がします。

いち子は母がどこかへ行ってしまい、今は一人暮らしですが、
「言葉はあてにならないけど、私のからだで感じたことは信じられる」
と思って暮らしながら、食べ物を作ることが生活になっています。
買い物に行く車はないので、必要なときは自転車で一日掛かり、
だけど生活に必要なものは、家の回りのフォレストから手にはいり、
そんな暮らしこそ、母から教わって身につけていたのです。

いち子役に橋本愛、幼なじみのユウタに三浦貴大、キッコに松岡美優、
そして母親役に桐島かれんという配役も、不思議とぴったりで、
美しい映像とともに、静かな時間が流れていくのです。
さらにバックで流れる音も、とても心地よかったですし、
出てくる料理も、自分たちで作って食べてみたいと思っていたら、
公式サイトには、ちゃんとレシピも載っていました。