「天国はまだ遠く」

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人生がイヤになって、自殺をしようと考えた若い女性が、
人里離れた山奥の民宿へ行って、睡眠薬を大量に飲んで眠る。
ところが翌々朝には目が覚めてしまい、朝ご飯をいただくと、
なんだか元気が出てきてしまい、そのまま民宿に滞在する。
民宿は若い男性が一人で、自給自足のように切り盛りしており、
自然に近い素朴な生活が、ふたりの距離を縮めていく。

こんな感じで、事前に内容を把握していたつもりの僕は、
途中から大きく裏切られる感じになってしまいました。
OLを辞めて逃げてきた、若い女性役の加藤ローサは適役で、
一人で田舎暮らしをしている徳井義実も、いい味を出している。
おおらかな自然に近い暮らしの中で、癒されていく心とか、
それを説教臭いことも言わずに、受け止める男の生活自体が、
そのまま、新しい時代の価値観を予感させてくれたらよかった。

ところが、きわめて残念なことに、この男には秘密がある。
自分の両親を、近くの道路で交通事故で亡くしており、
さらには恋人だった女性を、自殺によって失っていたのです。
そこまで追い詰められての、田舎暮らしだったとは・・・・
自然に近しい暮らしの良さは、まったく説得力を失って、
こんな田舎で暮らす若い男は、わけありだって事でしょうか?
この一点において、僕は裏切られた気持ちになったのです。

この映画は、キネ旬などでは視聴者の評価が良くって、
おおかたの映画ファンにとって、あるいは原作読者にとっても、
よほど訳ありでないと、こんな田舎に住まないと思うのでしょう。
つまりは、僕が期待した新しい時代を占う物語ではなくて、
常識的な考えの、ちょっと滑稽な癒し話に過ぎなかったのです。

こんな身も蓋もない言い方をしながら、それでも取り上げたのは、
何も恋人が自殺しなくても、田舎暮らしを夢見る若者は増えており、
そうした新しい価値観で生きる若者がさりげなく描かれていれば、
「めがね」のような味わいが出ただろうし、同じ癒されるにも、
お互いに同じ傷をもって舐め合うような、古い癒しではなく、
新しい生き方との出会いによる、夢のある癒しになったはずだと、
そんな妄想を抱かせてくれるだけの、「何か」はあったからです。

あえて言えば、同じ部落に住む年老いた夫婦もいい味だったけど、
それさえも、わけありを匂わせていて、いかにも残念でした。
自然のおおらかさこそが、人の心を優しく包むはずなのに、
物語の設定はどこまでも作為的で、技巧的で、自然さが乏しく、
シンプルな設定に期待するものが大きかった僕としては、
いかにも残念でしょうがないのでありました・・・ハイ!


瀬尾まいこの原作「天国はまだ遠く」は、(↓)こちらから。
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