「クレールの刺繍」

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最近は、女性を描いて優れた作品がたくさん出ています。
小説でもそうだけど、映画では特に興味深いものが多くて、
それらの共通した特徴は、男は重要ではないことでしょう。
親子関係は大切だけど、男女関係は案外どうでもいいのです。

こうした感覚は目新しいものではなく、むしろ古くから、
母系社会と呼ばれる、自然発生的なものに多く見られます。
女たちは家族や友人、仕事仲間、近所づきあいなどを通して、
様々な関係を大切にしながら、そこに居場所を見つけていく。
男も関係はしてくるけど、決して最重要部分ではないのです。

そんな女の世界を描いた作品の一つが「クレールの刺繍」です。
少なくとも僕の周囲では、公開当時から目立った映画でもなく、
誰も気にするような話題性もなさそうな作品だったでしょう。
それが時々見かけるスチール写真に、なにか惹かれるものがあり、
借りて見てみたら、やはり僕が好きになる魅力を秘めていました。

主人公クレールは若い女性で、既婚の男性の子を身籠もっている。
少しずつ大きくなるお腹の子に困り、堕胎はしないのですが、
男に責任を持たせる気もなく、自分で育てるつもりもありません。
一体どうするつもりか、産んで養子に出す制度を利用するのか?
そんなことを心配しながら見ていると、意外な結末がやってくる。

お腹の子どもの成長に合わせて、クレールも少しずつ成長して、
その過程で知り合った人たちとの絆を、強固なものにしていきます。
女にとっての環境、安心して子育てをしようと決心する世界とは、
男が考える経済社会とは、何か少し違っているもののようで、
この映画にはそれが、刺繍を仕上げる美しさに織り込まれていく。

ここに描かれているのは、僕にはうまく説明の付かない世界で、
だけどその美しさは、手を触れられないままでも、大切にはできる。
クレールは平気で嘘をついたり、家族を欺いたりもするのだけど、
同じように家族を愛し、周囲の人に優しさを示すことも出来る。
縮れ髪を気にして巻いたり、これ見よがしに見せる気分も伝わる。

見終わっても、この映画が見せてくれたものは、言葉にならない。
刺繍する部屋が地下室だったのも、何か意味があるのでしょう。
光りと陰に浮き上がる、見えるものや見えないもの、その奥の何か、
存在するものをそのまま受け入れる、愛を感じさせる映画でした。


クレールの刺繍」VDVは、(↓)こちらから。
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今日の写真は、石垣島で撮ったツムブリの群です。