「ククーシュカ・ラップランドの妖精」

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いやあ、いいですねえ!この映画は新鮮でした!
モスクワ国際映画祭で最優秀監督賞ほか5つの賞を取って、
サンフランシスコ国際映画祭でも観客賞を取っている作品なので、
それなりのレベルは最初から期待して見ていたのですが、
その期待を超える、なんとも言えない魅力的な映画だったのです。

第二次世界大戦の末期で、フィンランドの北部ラップランドが舞台。
戦争に協力的でないフィンランドの狙撃兵が、見せしめを兼ねてか、
ドイツ軍の服を着せられて、岩場に鎖で繋がれ、放置されてしまう。
彼は知恵を絞って岩から鎖を抜き取り、足枷を切る道具を探して、
地元の民家を訪ねると、そこにはサーミ語しか話せない女がいて、
彼女はロシア語しか話せない負傷兵を家に入れて介護していた。

フィンランド語しか話せない狙撃兵は、自分は戦争しないと言うけど、
ロシア語しか話せないロシア人は、彼の服装からドイツ兵だと思い、
ファシストだと罵りながら、彼をナイフで倒そうとさえする。
そしてサーミ語しか話せない戦争未亡人が、二人の面倒を見ながら、
言葉が通じないのに、男に様々なことを期待して話しかける。
このまったく言葉が通じない状況下で、それでも人は話し続ける。

情景描写も丁寧で無駄がなく、ラップランドの風景も興味深い中で、
まったく意志疎通が出来ないまま、三人の共同生活が進んでいく。
このサーミ語しか話さない女の生活ぶりも、味わい深くて、
日本のアイヌにも共通する文化があるように感じられました。
自然の中で素朴に暮らす人々が持つ、知恵のようなものでしょうか。
そしてこの、言葉も通じないのに生まれてくる信頼感がすばらしい!

過酷な自然の中で、一人で暮らす若い未亡人が男を求める。
それは精神的にも肉体的にも物質的にも、相手が欲しいと言うことで、
男たちも次第にこの女性に心を許し、それ以上に心を惹かれていく。
そんな男の葛藤や心理状態も、過不足なくうまく描かれています。
争い続ける男二人のあいだで、怒りながら二人共を受け入れる女は、
なんともしなやかで強靱な、人間の姿そのものに見えてくるのです。

やがてある事件が起きて、ロシア男はフィンランド男を銃で撃つ。
しかしすぐにそれは間違いだったと気付いたロシア男は、彼を助け、
女の家に連れ帰って、女は彼の命を救うために魂を呼び戻す儀式をする。
このシーンは、僕らとは違う文化習慣に基づくものでありながら、
それでも人間として共通する何かを感じられるので、よくわかるのです。
連れ去られようとする魂が呼び戻されるシーンは、納得いくものでした。

女がどちらの男とも関係を持つのは、人によってはイヤかもしれませんが、
僕はあまり違和感なく、そのまま受け入れて見ていることが出来ました。
そして季節が移り、二人の男は女のもとを去っていくのですが、最後に、
「世界は完璧じゃないけど、人生は悪いものじゃない」と言い残す男。
なんとも男の勝手な振る舞いのようにも見えながら、実は女の方が強かで、
この映画のラストシーンには、思わず笑顔にならずにはいられないのです。

この映画は脚本も監督もすばらしいけど、出演者の魅力も大きいですね。
ロシアの俳優とフィンランドの俳優が共演して、サーミ人を演じた女優は、
実際にサーミ人の子孫にあたる人で、この役にぴったりの女性でした。
DVDにはメイキング・フィルムも入っていましたが、その中で男優が、
「どんな状況においても、人間は愛さずにはいられない」と言っていた、
その言葉が、そのまま映画になっているのだと思いました。


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