「運命におまかせ」

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森田健という人の「運命におまかせ」を読みましたが、
正直言って、奇妙な本だなあ!と思いました。
「運命に身をゆだねれば、幸せの方からプロポーズ!」
というキャッチ・コピーはわからないではないのですが、
何をもって幸せとするかが、どうも共感できない。

わざわざそうした感想を書くのは、幸せの感じ方として、
無理に目標を持ったり、辛くなるような努力をしなくても、
人は今あるそのままで幸せになれることは納得するのです。
僕自身も、今ある自分のそのままを受け入れることで、
気持ちよく暮らせているから、まったく共感する。

ところが、その先にあるものが、どうも怪しい気がします。
人の価値が代替え可能であると、やたらと勧めたり、
セックスのエクスタシーより、五行的世界観を賛美する。
人間は努力などしないで、おまかせ状態にしていれば、
「すべてはうまく行く」とまで言い切っているのですが、
何がどういいのかは、まったく書かれていません。

作者は何が価値あることかをまったく吟味せずに、
「必要なお金や幸運は向こうからやってくる」と書いている。
しかも奇妙なことに、「根元的な問いは夢を融かす」
とも言っているのですから、最初から矛盾しています。
たとえば「お金とは何か」と問うている人にとって、
お金や幸運を手に入れることが「うまく行く」にはならない。

ただなんとなく読んでしまうと、いかにも正しそうで、
現状に満足していない人は「なるほど!」と思うでしょう。
だけど、これをそのまま信じて幸せになれる人がいるなら、
その人は、いずれ何かの新興宗教を信じるかもしれない。
なにしろ自分で判断せずに、人の言いなりになるのだから、
体制を維持したい人にとっても、これはありがたい。

だけど自分でものを考えること、それ自体が喜びの人には、
これほど人を馬鹿にした内容の本も無い、と言えるでしょう。
作者は人の存在を環境の「結果」として見ていますが、
その環境を作るのもまた人の努力の結果なのですから、
こんな鶏と卵みたいな話に、結論を持つことはないのです。

この世界に生まれてきたとは、結果でもあり経過でもある。
僕らはそこで自由に感じ、考え、生きることによって、
新たな存在となって、世界との関係を楽しむことが出来る。
すべてを運命として何も努力しないことを良しとするのは、
自分が存在している喜びを放棄するようなものでしょう。

これは、いかにも危ない、あやしい本だと感じました。
ただ一つ言えることは、途中まではまったく正しいので、
「根元的な問い」を間違えなければ、優れた本と思います。


森田健さんの「運命におまかせ」は、(↓)こちらから。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4062143828?ie=UTF8&tag=isobehon-22