「里山資本主義」

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昨年の12月21日に行われた、藻谷浩介さんの講演会では、
里山資本主義への問い掛けが、大きなテーマとなっていました。
その里山資本主義とはどんなものか、本を読んでみると、
少し気になるところはありますが、基本的にはいい流れで、
マネー資本主義と対象を見せる、新しい価値感が描かれています。

この里山資本主義という言葉は、NHK広島放送局の井上恭介さんが、
シリーズ番組を制作する中で産み出された、新しい言葉のようです。
この本自体も藻谷さん一人ではなく、井上さんともう一人、
同じ番組制作を担当した、NHK広島の夜久恭裕さんによる、
3人での共同執筆の形を取っており、番組の影響も大いのでしょう。

実は僕が以前から漠然と持っていた、お金に対する疑問を、
初めて具体的な形で考えさせてくれたのが、鎌仲ひとみさんによる、
エンデの遺言」という、1999年のNHKの番組でした。
それ以来僕は、地域通貨をはじめ様々な試みをしながら、
お金の問題を考える中で、お金ではない暮らしを探ったのです。

具体的には、自然農による“問題を起こさない生き方”を目指し、
だけど自分が置かれた状況を、無理せずに生きていくこと。
人口や産業が集約的に過密化していない、過疎的な田舎において、
ゆっくりと自分の生を全うして生きる、そんな暮らしの中に、
お金に振り回されない、安心で安全な暮らしがあると知ったのです。

これまでも「脱成長」のように、マネー資本主義を超えようとする、
理論的な考察や、スローライフと言った発想はありましたが、
お金経済をマネー資本主義として、その対抗軸を里山資本主義として、
全体を俯瞰的に見ながら、新しい社会の在り方を示したものは、
この藻谷さんの「里山資本主義」が、初めてではないかと思います。

本の内容は、多くの人に読んでいただきたいので詳しく書きませんが、
「マネーに依存しないサブシステム」が、一つのキーワードです。
多くの実例は、マネー資本主義では辺境の過疎地から始まっており、
今までマイナス面でしか見られなかった、過疎の自然環境を、
本来の豊かな自然環境と捉え直して、それを活かす道を探っている。

筆者の藻谷さんは、マネー資本主義へのアンチテーゼとして、
(1)貨幣換算できない物々交換の復権
(2)規模の利益への抵抗
(3)分業の原理への異議申し立て
この3つを挙げていますが、内容は僕にも同意できるものでした。

またうまく本質を捉えておられる、と納得できた理由には、
こうした里山資本主義が、単なる田舎暮らしの推薦では終わらず、
都会に住んでいる人も含めて、生き方と考えている点なのです。
過密な都会は問題が大きいけど、それでも都会には都会の、
山里には山里の、海辺には海辺の適した暮らし方があるはずです。

その適正をもってしても、すでにマネー資本主義は破綻して、
新しい考え方が必要なところへ、この里山資本主義が登場する。
したがってこの資本主義は、田舎で都会化を目指したりするのでなく、
それぞれの地域にあった、自給自立的な暮らしを基本とするから、
地域の自然を活かすことが、最大の課題となってくるのです。

マネー経済からの脱却を言えば、経済が破綻していいのかとか、
お金がなければ何もない!かのように、考える人が多い。
こうした常識は人工的に作られて、思い込まされているものだから、
そうではない生き方があること、自然が健全であれば生きられる、
お金を追い求めるよりも、豊かに生きられる道があると知ることです。

また仕事をする価値として、お金換算でしか考えないのではなく、
僕も以前から言っているように、人に喜んでもらう楽しみを価値として、
自分が掛け替えのない人間になることで、人生に価値を見出すのです。
少子高齢化と一括りで考えずに、高齢者も自分を活かせる暮らし、
子育て世代も無理せずに働ける社会が、自然に子どもを増やしていく。

高齢化社会を、増税による社会資本で対応するのではなく、
お金にならない非生産的な価値を活かして、喜びを増やしていく。
お金を稼がない人でも、存在がそのまんま喜びになっていけば、
自分を肯定できる人が増え、子どもの存在も喜びになるのだから、
たとえGNPが減っても、人の暮らしに喜びが増えるのです。

経済成長を止めることは、決して暮らしが貧しくなることではなく、
すでにある豊かな暮らしを維持しながら、社会の構造を替えていくこと。
藻谷さんは里山資本主義のことを、マネー資本主義のサブシステムと、
謙遜気味に言っていますが、僕はむしろその逆の方が自然で、
マネー資本こそ、自然資本のサブシステムと考えるべきと思うのです。

長くなりましたので、このくらいにしておきますが、
この課題は現代社会の、主要課題の一つだと思うので、
これからまた何度でも、折を見て考えていきたいと思います。
この本は、こうした問題を整理する上で重要なものであり、
さらに次の一歩を考えるための、大切なステップと思いました。