「エレニの旅」

98年に「永遠と一日」で、
カンヌ映画祭パルムドール大賞を受賞した、
テオ・アンゲロプロス監督の新作映画だ。
およそ3時間近い大作だと知らずに見たけど、
映像は美しいし、それほど長いとは感じなかった。

ただし、カメラワークがスローに動き続ける、
独特のカットが僕には終始落ち着かない気がしたし、
一つ一つのシーンをあまりにも長々と撮すので、
見ているときに多少のいらだたしさを感じた。
それでいて、見るのをやめたいとは思わずに、
主人公エレニの寄る辺ない人生を最後まで見続けた。

戦争孤児として族長スピロスに拾われたエレニが、
スピロスの息子であるアレクシスの子を産むが、
その双子はスピロスの怒りを恐れて養子に出される。
やがてスピロスは妻を亡くした後に、
エレニを後妻にしようと結婚式を強行する。
その結婚式の当日に家を逃げ出した二人は、
バンド仲間に助けられながらスピロスから逃げ回り、
アレクシスはアコーデオン弾きとして暮らしていく。

このあとまだまだ物語は続くのだけど、
ストーリーについてはこれ以上は書かない。
僕がここで書いておきたいのはこの物語の神話性だ。
あとでこの映画のHPを開いて見たら、
監督のこの映画に対するコメントが載っていた。
そしてこの物語は、寄る辺ない人間(難民)を扱った、
壮大なギリシャ神話三部作の一つになるのだと言う。
その全体も壮大な構想なら、この作品だけでも、
世界中にロケハンをして200軒の家を建て、
舞台となる村を作ってしまったと言うから凄まじい。

そこまでしてどうしてこんな重々しい映画を作るのか?
あらためてこの監督が過去に作った映画を見ると、
旅芸人の記録」「アレキサンダー大王」
そして「シテール島への船出」と重い大作が並び、
そこには、何も持たずにさまよう人間の姿がある。
「ひとつの愛が一つの家族を文字通り破壊する」
あらゆる努力が無惨にうち砕かれるギリシャ悲劇の姿。
そう気付いて初めて、どこかシュールな映像が、
いかんともしがたく現実味を帯びて見えてきた。