「資本主義の歴史」

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ドイツの著名な歴史学者である、ユンゲル・コッカ氏が書いた、
人文書院刊の「資本主義の歴史」を、最後まで読んでみました。
(起源・拡大・現在)と副題がある通り、資本主義の概念について、
どのように成り立ってきたか、まず言葉の使われ方から検証しています。
資本主義の言葉が一般化する前に、まず資本家と呼ばれる人が登場し、
18世紀半ばには、非稼得性収入で生活できる人を指す言葉となる。

しかし資本主義の言葉が一般的になる以前も、商人による資本主義は、
西暦500年~1500年頃既に、世界中にあったのも事実です。
そこで著者は、これが現代の資本主義に至るまでの過程を、
一本化せずに追うことで、国家や文化による影響を排除して考えます。
資本主義を、例えば社会主義共産主義や民主主義との対立軸で見ないで、
そうした社会制度とは一線を画すものとして、独立的に見るのです。

するとこの資本主義とは、利益や収益を追求するシステムではあっても、
社会が何を目指すのかと言った目的とは、共存も敵対もしないとわかります。
資本主義自体は、民主主義とさえも補完的な役割を担えるし、
独裁政治や封建政治とも、その強力な協力システムとなるのです。
これがいわゆる起源から拡大までの総括で、さて現代はと見るなら、
多くの人が知る通りに、金融資本主義による破壊が起きている。

著者はこの辺の事情も、同じ理由から出ていると見ており、
資本主義のシステム自体には、何の目指すところはないと考えます。
したがって現実の人間社会においては、人々が何を目指すのかは、
どこまでも政治的な課題において社会は決まり、資本主義はそれを助ける。
逆に言えば、資本主義はシステムに過ぎないので、これを目的化すれば、
社会はいかようにでも破壊され、経済自体が成り立たなくなる可能性もある。

一般に言われている、産業革命による資本主義の勃興と言った観点は、
大きく関係があるにしても、資本主義の必要条件でさえない。
資本主義は産業革命以前から、商業資本主義や家内工業の資本として、
すでに社会の中に根ざしており、政治とも密接な関係にあったと言います。
その調達資金が巨大化して、広い地域から資金を募るようになって、
グローバル化が進んだときに、国による規制が重要な要素になったと見る。

コッカ氏が最後の短い章「展望」の中で、中心的に書いていることは、
すでに資本主義そのものが悪とは見なされず、どう使うかの段階にある。
資本主義と民主主義は、単純に期待できるほど親和性はないとしても、
資本主義自体が目標を持つわけではないので、どんな政治目標にも役に立つ。
民主主義による政治が十分な力を持って、システムをコントロールすれば、
資本主義はあらゆる文明に役立つ、と結論づけている本でした。