「こころに響く方丈記」

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1万年堂出版から出ている、木村耕一さんの著書、
「こころに響く 方丈記」を、読ませていただきました。
日本画を専攻して、イラスト・マンガを書いておられる、
黒澤葵さんの挿絵が、とても良い感じで配されており、
所々にある写真も、的確な表現を助けていてわかりやすい。

この本は、日本人なら誰でも知っている「方丈記」を基に、
そこに描かれている世界観を、簡易な言葉で解説しています。
徒然草」「歎異抄」と並んで、日本思想の3代名著、
と言う人もいるくらい、有名な本ではあるのですが、
その内容については、必ずしも多くの人が知るわけではない。

「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、元の水にあらず。
 よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて久しく留まりたるためしなし。
 世の中にある人と栖(すみか)と、またかくのごとし。・・・」
この出だしは余りにも有名で、無常観を現しているとされ、
無常観こそ、日本人の心の底に流れる基本的な考えでもあります。

そう長い文章ではないので、全文を読むのも苦ではないでしょうが、
この本の中では意訳的に、現代語での解説がされているのです。
第1章から第5章まで、20段に分けての意訳的な解説ですから、
原文のニュアンスとは、少し違って感じるところもありながら、
全体を読むと、方丈記の著者・鴨長明の訴えたかったものがわかる。

幸せを願って努力して、様々な富を手に入れて栄華を極めても、
大火、竜巻、権力闘争、飢餓、地震などによって、すべては灰燼に帰す。
そうした浮き世の価値観を捨てて、火宅無常の世界を自覚すれば、
多くの不幸を克服して、明るく楽しい大船に乗った気持ちになれる。
と言いながら、具体的な救いは法然親鸞の教えに任せます。

若い頃から不遇と絶頂のアップダウンを繰り返し、晩年になると、
小さな方丈庵に籠もって暮らした、鴨長明の生き方も紹介し、
この方丈記が、どのような背景を持って描かれたかも示します。
そしてこの無常観は、現代においても変ることはないのに、
様々な災いも過ぎてしまえば、人々は忘れてまた富に執着する。

鴨長明は晩年において、こうした浮き世の価値観を持つ人々から、
少し距離を置いて生きながら、その気持ちが分からないと言う人には、
「魚が水の中にすむ心は、魚でないと分からない」と言ってのける。
著者の木村さんにも、こうした考え方に共感するところがあり、
今一度「方丈記」の思想を、紹介したかったのだろうと思われます。

昔読んだ「方丈記」を、もう一度おさらいしてみたい、
そんな人にうってつけの、わかりやすい解説本でしたが、
これから初めて読もうとする人にも、わかりやすいと思います。
鴨長明が何を言いたかったのか、著者と一緒に探りながら、
人生を考えてみるときに、よい先達書となるでしょう。