「地理」3月号

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もう何度も読ませていただいている、古今書院の「地理」ですが、
今年の3月号には、「地政学を識る」とする特集がありました。
最近は様々な政治的あるいは軍事的展開で、地政学の言葉を見るのに、
政治学、経済学、物理学、社会学、医学、文学などの言葉と違い、
大学の学部名にも馴染みが薄く、どんな学問なのかよく分かりません。

わざわざ専門書を探すほどの気持ちにもなれず、放置していましたら、
今回信頼できる月刊誌、古今書院の「地理」で特集されていましたので、
さっそく興味深く思い、この特集を中心に読ませていただきました。
地政学を識る」の特集記事は、全部で6本載っておりましたが、
中でも私が一番興味深かったのは、大阪市立大学教授の山﨑孝史さんの、
地政学から沖縄県政をとらえる」で、識りたいことがわかりました。

例えばジョン・アグニューの「場所の政治」から、地政学を展開して、
ロカール locale」「位置 location」「場所感覚 sence of place」と、
3つの要素で、特定地域に展開される政治的事象を分析していきます。
そして近年沖縄で展開されてきた、オール沖縄とは何だったのか、
あるいは先島諸島における保守化と、島嶼防衛の展開も分析します。

さらに日本水路協会技術アドバイザーである、八島邦夫さんによる、
国連海洋法条約に基づく新たな海の秩序と国際的動向
  ー海の境界線と海図の役割」を読むと、国境紛争の展開もわかる。
海を巡り「内水」「領海」「接続水域」「排他的経済水域」「公海」
と5つの区分を設けることで、国の支配が及ぶ地域を明確にして、
どの地域で何が許されるかを、国際条約が決めてる現状がわかります。

特集の全体としては、古い地政学が軍事的な道具になったことから、
例えば安倍政権の方針では、「地球儀の俯瞰」を外交に取り入れながら、
地政学という言葉を使わないことに、隠れた意味も見いだします。
九州大学教授の高木彰彦さんが、この特集の全体的な意味と展開について、
特に歴史的経緯について、わかりやすく解説されているのがありがたい。

国境を接する近隣諸国との関係は、その辺境において問題が起きる度に、
政治経済から文化社会までを巻き込んで、大きなトラブルになったりする。
その様子を全体的に冷静に把握するためには、学問的な検証が有効で、
それを実現するのが、地政学という学問分野になるのでしょう。
大学の学問分野を見ていると、その時代に何が必要とされるかわかり、
今の時代には福祉学や社会学が、やがては地政学が増えるかも知れません。

いつの特集を見ても、古今書院の「地理」は生きた学問を紹介して、
専門家ではない私たちにも、わかりやすく専門知識を展開してくれる。
と同時にこの書物全体では、地政学と言ったアップデートな話題だけでなく、
地道な好奇心をくすぐる、知的冒険の記事が多いのも嬉しくなります。
こうした書物がもっと広く読まれ、知的暮らしが豊かになればいいですね。