「幸せなひとりぼっち」

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45年間勤めた鉄道職員の仕事を、突然解雇されたオーヴェは、
かつては町内の自治会長も務めたことがある、初老の男性である。
彼は地域の治安を守るため、自ら町内の監視役もやっている、
規律に厳しい人ですが、妻を亡くして気難しい鼻つまみ者でもある。
妻を亡くし、職を失い、町内でも疎まれ、親しい友もいない、
そんな孤独に耐えられなくなったオーヴェは、自殺を試みます。

しかし天井からロープを吊して、クビを掛けようとしたその時、
向かいに引っ越してきた家族の車が、郵便受けにぶつかってきます。
車の進入を禁止している敷地内なので、怒って飛び出して行くと、
うまく車を操れない家族だったので、彼が正しく車を停めてやります。
そのお礼に持ってきてくれた、ペルシャの手料理を食べてから、
この家族とオーヴェは、心を通わすようになるのですが・・・

親しくなった妊婦のパルヴァネに、オーヴェが話した人生は、
とても辛く、だけどステキな妻との心温かくなるものだったのです。
7歳で母親を亡くし、仕事一筋で厳格な道徳観を持つ父親に育てられ、
そのまま父親と同じ仕事に就いた彼は、やはり厳格な男になります。
そんな彼が偶然に列車の中で知り合った女性に、心を奪われて、
恋をして結婚し、やがて妻は妊娠して出産前の旅行をする。

ところがこの旅行の最中に、観光バスが事故に遭ってしまい、
妻の命は助かりますが子どもは失い、彼女自身も車いすの人になる。
それでも学校の先生になった妻を、彼はずっと応援するのですが、
途中で何度も挫折しそうになるのを、二人で乗り切るのです。
そしてこの最愛の妻を亡くしたことから、彼の孤独が始まりますが、
死のうとする度に次々と邪魔が現れて、自殺が失敗ばかりするのです。

頑固で正義感の強いオーヴェのような男は、周囲とうまくいかず、
自分の生き方を貫けば、やがて孤立を深めていくのですが・・・。
そんな彼の愛情の深さによって、思わぬ人助けを続けるので、
実は彼を信頼して頼る人も、ちょこちょこと現れるのです。
そんな人たちが彼を頼りにして声を掛け、彼は正義感を貫きながら、
周囲の人に必要ともされる、近所の頑固親父ぶりが見事です。

この映画は、スウェーデン人のフレドリック・バックマンが書いた、
「En man som heter Ove(オーヴェという男)」を原作としています。
2012年に書かれたこの小説は、これが処女作ということで、
累計発行部数が250万部あり、世界中で好評価を得ているようです。
人生の苦しみと喜びをみごとに描き出して、どこか笑いも誘うのは、
なんだか「寅さん」シリーズを、思い出してしまうのですが。

僕らの周囲にも、人生の苦難を乗り越えてきた人が大勢いて、
そんな彼らの生きた物語を、もっと大切にしたいと思わされました。
役者もぴったりの配役で、引っ越してきた家族の妊婦役を始め、
近所の人たちもオーヴェと喧嘩しながら、信頼関係も深くあるのです。
何か特別のことではない、身のまわりに住んでいるありふれた人に、
それぞれの素晴らしい物語があることを、思わされる映画でした。