「万葉ことば」

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幻冬舎から出ている、「万葉ことば」を読みました。
日本の古い言葉には、現代語にない奥深さを感じるし、
なによりも柔らかみがあって、上品な感じがします。
だけど具体的にどんな言葉が、万葉ことばと言えるのか、
よく分からないままに、ともかく中を読んでみました。

「さきく」「はだれ」「はつはな」と始まって、
「さき」とは「幸」の意味だと、解説してありました。
初花ばかりか初雪や初恋など、日本人が初物好きな理由で、
初物には力があると考え、あやかろうとしたのだとか。
言葉の解説は、文化や価値観自体の解説だと気づき、
次第に読むのが楽しくなって、最後まで読み終えました。

「しぐれ」「ことだま」「よみ」「いにしえ」など、
普段から使って、わかっているつもりの言葉も意味が深い。
そしてやはり、言葉がやわらかい音で出来ているので、
それだけで優雅な気持ちになり、当時の文化を感じます。
「なづさふ」「みなわ」など、現代では使われていないので、
一見外国語のようですが、説明を読むとよく分かる。

もう使われていない言葉が、説明されるとわかるのも、
どこか不思議で、日本人の血脈のようなものを感じます。
そんな言葉が全部で195語掲載され、解説されているので、
一通り読むと、これだけで万葉の文化がわかった気になる。
「よばひ」などの言葉は、昔と今とでは使われ方が違い、
万葉の時代では、お互いに呼び合うことだったとか。

そもそも簡単には名前を教えなかった、当時のことなので、
名前を知って呼び合うこと自体、いい仲だったはずです。
夜の闇に紛れて忍び寄り、お互いの名を呼び合う仲であれば、
寝所に入り込んでも良かったとしても、“夜這い”ではない。
言葉は生き物ですから、時代によって意味も違えば、
気配だけ生き残って、説明されるとわかるものもある。

「ゆゆし」などはその典型で、普段はまったく使わないのに、
神聖に関わる慎まなければならないこと、となんとなくわかる。
「たぎつ」などもそうで、今では使わない言葉ですが、
生命力のようなものが、ふつふつと踊り出す様子がわかる。
「いとう」の説明を読むと、はっきり嫌いではないけど、
近寄りたくない具合が、微妙に伝わってくるのです。

だけど読み進んでみる内に、こうした微妙な言葉は、
自分が子供だった50年前には、まだ使われていた気もします。
なんとなくの情の時代から、白黒をはっきりさせる時代へ、
人々の暮らしの変化によって、失われた言葉が多い。
しかも最近になって、こうしたやわらかい言葉が失われた、
ってことは、時代が世知辛くなったって事でしょうか。

万葉言葉の意味を探っていたはずが、いつか気がつくと、
現代の索漠とした世界が見えてきて、寒気を覚えるのです。
人間の感性を言葉にしたが故に、曖昧で柔らかだった言葉が、
白黒はっきり、イエス・ノウがはっきりする言葉になった。
それは人間にとってどうなのか、と考えさせるのです。