「国を救った数学少女」

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読み始めてみると、頃はアパルトヘイト時代の、
南アフリカの貧民街で、主人公は12歳の黒人少女の話し。
あまりにも身近さからほど遠くて、最初は読みづらく、
最後までは読まなくていいや、と思った小説でした。
ところが読み始めてみると、テンポの良い書きっぷりで、
キャラクターも面白く、物語りも興味深くなってくる。

作者は1961年生まれの、スエーデン出身者で、
テレビ番組を制作していた人が書いた、第2作目とか。
1作目の「窓から逃げた100歳老人」が、面白かったようで、
本屋大賞翻訳部門第3位だったのが、今作品では第2位です。
どうやら一発屋ではなさそうだし、テレビ番組を制作する、
時代感覚もありそうで、少しずつスムーズに読めていきます。

すると今度は、その時代感覚にある歴史の視点が、
単なる教科書的でもなければ、反教科書的でもないとわかる。
何か絶妙なユーモア感覚が、歴史を包み込んでいて、
主人公のノンベコの悲惨な境遇さえ、何だか笑えてくる。
僕らは元々アパルトヘイトなんて、実感がないので、
苦手な概念だけど、あまり深刻にならずに読み飛ばせる。

そしてこの利発で無教養な、貧民街の黒人少女が、
人生の数少ない転機を、機敏に乗り越えていく姿が読める。
読んでいる内に、決して褒められたものばかりではない、
ノンベコの性格が、新しい状況に合わせて臨機応変に振る舞う、
そんな姿が生き生きと描かれて、読むのが次第に楽しくなります。
こうなると作者の思うつぼで、どんどん先が読みたくなる。

人種差別や原爆や、共和政治や共産党や王政政治が、
まるで漫画のように弄ばれ、モサドの諜報員まで登場する。
なんだこれは、冗談にもほどがあると思うのだけど、
まさしく冗談のような現実があるので、釣り合いは取れている。
実在の地名に実在の人物に、実在の政府機関なども登場して、
それが入り交じりながら、荒唐無稽な話になっている

なんだなんだ?と思いながら、あまりの調子良さに、
ばかばかしいと思うけど、読んでいるのが楽しいのです。
僕らがインターネットやテレビで見る世界が、姿を変えながら、
架空世界と現実世界が、限りなく交差する面白さがあります。
後半のスエーデンが舞台の所は、実在した首相や王まで、
それぞれ個性的なキャラクターで登場し、活躍してくれる。

こんな大胆で破天荒な小説は、あまり記憶にないし、
たぶん日本人には書けない、ユーモアに富んでいるのです。
コミカルなコミックと言うよりは、ユーモアに富んだ小説で、
現実にはあり得ないようなキャラクターも、実に面白い。
あり得ない話しなのに、現実の人物が出てくるから、
こんな話しもあっていいか、と思わされる力作でした。