「やさしい本泥棒」

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小説「本泥棒」が原作で、2013年にアメリカで制作されながら、
日本では劇場公開が中止となり、DVDだけが発売されました。
僕はたまたま図書館で見つけ、何気なく借りて観たのですが、
これがとても興味深い内容で面白く、俳優の演技も素晴らしい。
どうして日本の劇場公開が中止されたのか、気になるところですが、
こうして観られたのですから、劇場公開はどうでも良いのかも。

舞台は第二次世界大戦に突入するドイツで、里子に出されたリーゼルが、
里親になったハンスとローザから、様々なことを学んで成長する。
リーゼルは言葉の読み書きが出来なかったのを、ハンスが気がついて、
文字の読み書きを教え、本を読むことで多くのことを覚えていく。
そんな家族の元へ、かつてハンスが世話になった男の息子がやってきて、
一家はこの男を匿うことになりますが、とても困難な状況が近づいてくる。

スリリングな展開もありますが、主役リーゼルを演じたソフィー・ネリッセが、
知的好奇心に燃えて突き動かされる感じが、強く共感できるのが良かった。
ドイツでヒットラーが台頭してくる時代に、市井の生活はどんなだったのか、
それを考えて見ているだけでも、興味の尽きない日々が描かれています。
そしてここに登場する人物を見ると、大きな時代のうねりに飲まれながらも、
家族を大切にして、次の世代に希望を託している姿が好ましいのです。

生き延びるさえ困難な時代に、ただ生きれば良いのではない生き方として、
いのちの危険に苛まされながらも、正しいと思うことを貫いている。
誰にも言ってはいけない秘密や、何でも話さずにはいられない心の声に、
翻弄されながらも生きていく、したたかな若い命がとても素晴らしかった。
僕らはもしもやがてこんな時代になったなら、どのように生きられるか、
何を大切に生きるのか、一度は考えておく必要があるのでしょう。

同時にこの作品は、人間への信頼が色濃く下地に流れているので、
どんな困難な時代であっても、人は人と助け合って生きることを教えます。
人間同士の信頼をどのように築くのか、家族なら日常から学べるけど、
それ以外の人と人を繋ぐのは言葉であり、広くは文字であると言うこと。
たとえさみしく孤独なときも、言葉や文字が人々との絆を繋ぐことで、
孤独は癒やされ勇気を得るのだと、この作品は教えてくれるのです。

この舞台の頃から現代までに、時代は大きく変わったのでしょうが、
たぶん人間の本質は、そう大きく変わらなかったのではないでしょうか。
どんな絶望の中にも、人と人が手を取り合える限り希望はあるでしょうし、
ぼくらは文字や書物によって、孤独から救われることが出来るのです。
すでに70年の歳月を経ても、戦禍の時代は忘れられることなく、
小説や映画で追体験できることで、僕らは平和の大切さを学びます。