「アンマーとぼくら」

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図書館で何気なく手にとって、立ち読みをしていたら、
舞台が沖縄だったこともあり、読んでみたくなった本です。
作者の有川浩と言う人の作品は、読んだこともなくて、
図書館戦争」や「県庁おもてなし課」は映画で見ており、
その原作者だって事は、後になって知ったくらいです。
読み始めたら面白くて、一昼夜で全部読みました。

作品のシチュエーションや構成も、間違いなく面白いし、
文章のテンポが良いので、あれよあれよと読み進んでしまう。
たった三日間の話しではあるけど、人生全体の話でもあり、
人の生涯や恋愛、結婚や家族と言った大切な要素が全部ある。
しかも読んでいるうちに、何か大きな仕掛けがある事に気づき、
それが何であるか探るうちに、全体像が浮き上がってくる。

人間の純情が、子供っぽいカメラマンだった父を通して、
少しずつ見えてくるとき、単純ではない人間の魅力に気づく。
自分を産んでくれた母親と、新しいお母さんとの関係から、
少しずつ大人になっていく、一人の少年が見事に描かれている。
お母さんが生きていたときには、出来なかったことが、
後悔と共に、火葬する短い時間の中で夢のように実現する。

果たして間に合ったのか、本当は間に合わなかったのか、
母ではないお母さんに対して、培われた愛情が眩しく写る。
ひとときの夢は、こうして文章にすると3日間の出来事になり、
しかもその3日間のうちに、父の生涯と母の人生が見える。
理屈で思い出すのではなく、忘れていたはずの記憶から、
よみがえってくる様々な事象を経て、何かが納得できていく。

僕らとは父と自分のことなのですが、お母さんの目を通して、
父を見ることが出来たとき、僕は父の分身であることを自覚する。
子供っぽかった父が、どうしてこのお母さんを愛したのか、
ようやく理解できたときは、父が亡くなった後だったのです。
そしてなるべくお母さんの元を離れるのが、親孝行だと思ったのに、
そうではなかったと知って、一緒に3日間の休暇を過ごす。

物理的には間に合わなかったことが、この作品の中では、
一つの夢か奇跡のように、間に合ったと思われてくるのです。
人の記憶とは何なのか、真実とは何処にあるのかと、
そんな問いかけがされているような、思い切った作品でした。
その舞台が沖縄だったのは、決して偶然なんかではなく、
沖縄風土にある精霊への素朴さが、この作品を生んだ気がします。

作者自身がこの作品を、「現時点で、これ以上のものは書けません」
と言っているのもうなずける、優れて完成された作品だと思う。
人間らしい感性を突き詰めるのに、沖縄の風土を利用していながら、
いつのまにか人間普遍の愛と祈りについて、考えさせてくれる、
読み終わっても心地よさが続く、大好きな作品の一つになりました。