「神様メール」

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やっぱりヨーロッパの映画は、センスがユニークで面白い。
今回見た「神様メール」は、どちらかと言えば子ども向けですが、
その奇想天外な発想が、不思議とナチュラルな感覚を備えています。
神様はブリュッセルのアパートに、家族と一緒に暮らしており、
そこに暮らす10歳の娘が、今回の物語の主人公になります。

神様は女神の妻と娘のエアと、3人で暮らす老人ですが、
どちらかと言えば意地悪で、人が苦しむのを見て楽しんでいる。
エアの兄であるJesus-Christは、昔家出をして人々を助けたのですが、
神はそれも面白くなくて、世界中の人間をコンピューターで管理し、
人が嫌がることをプログラムして、楽しんでいるだけなのです。
以前には兄が反旗を翻しましたが、今回は妹のエアが反抗します。

2000年前のJesus-Christと、現在10歳のエアが兄妹なんて、
常識で考えればわけがわかりませんが、そこは神なので何でもありです。
でもってこの映画では、父神に反抗するエアが人間全員に余命を知らせて、
人間界が大パニックになりますが、余命を知った人間が何をするかも面白い。
多くの人は自暴自棄にはならず、残された時間を悔いなく過ごすために、
自分の命が持つ可能性に目覚め、新しい一歩を踏み出し始めるのです。

父神から逃れて街に出たエアは、6人の使徒を作り始めます。
この辺の顛末は仏教徒には分かりづらいけど、合計18人になると、
何かが起きるとする兄の預言も、母である女神によって現実化します。
何が何だか分かるようでよく分からない、ハチャメチャな中にも、
人間は何をして生きるべきかと問う、しっかりしたメッセージが見える。
このあたりがドルマン監督の真骨頂で、何とも言えず面白いのです。

この監督はベルギー生まれで、パリの専門学校で学んだ後に、
児童演劇の監督として仕事を始め、その後に映画を撮り始めている。
91年には「トト・ザ・ヒーロー」で、カンヌ・カメラ・ドールを受賞し、
96年の「八日目」では、カンヌの主演男優賞を受賞しています。
そして09年の「ミスター・ノーバディ」も、多くの賞を取っており、
今ではヨーロッパを代表する、個性的な映画監督になっています。

それにしてもこの映画は、フランス・ベルギー・スイスで大ヒットし、
命の観点から人生を見直す、面白くて意欲的な作品になっています。
実は先月見たジブリの新作「レッド・タートル」も、あるいは話題の短編
岸辺のふたり」も、同じように人生の意味や価値を見直そうとする。
それぞれ手法は違いますが、人生の全体を俯瞰したような作品で、
生きることの意味を問うている点で、「神様メール」も同じなのです。

余命を知った人間は、時間が短ければ短い時間に何をするか考えるし、
長い人もやはり同じように、その時間を何して暮らすかを考えるようになる。
つまりはどんな人間であれ、限りある命の中で何をするかと考えたとき、
戦争に行こうとは思わないし、自然や愛し合うことの大切さに気づくのです。
今のヨーロッパでは、難民問題を抱えて戦争が忍び寄ってきており、
この時代性が、こうした作品を呼び出しているのかもしれません。

一見愚鈍に見える母の女神が、最後に見せる素晴らしい展開は、
途中で現実感を持ちすぎた僕には、改めてファンタジーとなりました。
ヨーロッパの個性的な俳優も見所で、主演のエアはもちろん、
6人の使徒や新・新約聖書を書く、ヴィクトールも魅力的です。
そしてこの新しい聖書に書かれた中身が、またなんともすてきなのです。