「台北カフェ・ストーリー」

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台北で美人姉妹がオープンした、カフェに繰り広げられる、
一風変わったラブストーリーですが、派手なところは何もありません。
現代の台湾を代表する女優、グイ・ルンメイがドゥアル役で美しく、
妹チャンアル役のリン・チェンシーも謎めいていて魅力的です。

お店を開店はしたものの、客足はさっぱり伸びないので、
チャンアルはアイデアを出して、お店の中で物々交換を始めます。
交換する物を持ち込んだ人が、コーヒーを飲んでくれれば、
それでお店が繁盛するから、お店の売り上げが伸びると考えたのです。

狙い通りに客は増えますが、旅行業者やおかしな客も来るようになり、
ある日一人の男性客が、35個の石鹸を持ってやってきます。
35個の石鹸には、それぞれ世界中の35都市の物語が付いていて、
彼はその物語を話すことで、石鹸を何かと交換したいと考える。

石鹸の物語に釣られて、チャンアルも様々な物に物語を付け、
どこまでが本当でどこからがフィクションなのか、わからなくなっていく。
そして映画の所々で、街頭インタビューのようなシーンが入って、
自由に選択できるなら、世界を旅したいか、勉強したいか、と問いかける。

はじめは妹が旅を選んで、姉は勉強することを選んでいたようですが、
物語を話しているうちに、妹は目の前の現実を選ぶようになって、
姉の方が世界を旅してみたいと思うように、変化していきます。
要所要所に登場するお母さんも、大阪のおばちゃんのようで憎めません。

気が付けば、あなたにとって一番大切なものは何か?と問われ、
母、姉、妹は、それぞれに違う価値観を持って話しているのがわかる。
「人生で一番大切なものは、お金では計れない」から始まって、
それぞれの物にさえ纏う物語が、あらゆる価値を決めていくのだと気付く。

恋愛感情はサラッとしていてべたつかず、背景でしかないけど、
それもまた春風のように、ドゥアルの頬を撫でて心の中を変えていく。
映画は本来叙事詩なのでしょうが、この映画の時間の流れは、
むしろ叙情詩のように、心象風景で流れていくようでした。

シーンのほとんどがカフェの中で、日常的な会話が多いために、
見ている僕もこのカフェにいて、この日常を目撃しているようなのです。
目の前の現実と、世界を飛び回る夢のような物語のはざまに、
実は僕たちは、あたりまえに浮かんでいるのだと気付かされるのです。