「木を植えた男」

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原作はフランスの作家、ジャン・ジオノによる短編小説であり、
発表されたのは1953年で、今から60年以上前に作られた作品。
それが1954年に、アメリカの雑誌「ヴォーグ」で紹介されますが、
地元国フランスでは、1974年にようやくいくつかの雑誌で紹介され、
1983年になってようやく、児童文学として出版されたようです。

さらに年月が過ぎて1987年になると、カナダのアニメーション作家、
フレデリック・バックが、これを30分のアニメ作品に仕上げました。
制作に4年半掛かったとされるこのアニメは、全編色鉛筆で描かれており、
色鉛筆のパステル調スケッチ、およそ2万枚によると言われています。
日本ではスタジオジブリから、『木を植えた男/フレデリック・バック作品集』
がDVDとして出ており、僕はこれを見てこの記事を書いています。

わざわざ記事にしたのは、やはりこのアニメの独特の感性に引かれたのと、
1913年に始まる、プロバンス地方で出会ったこの物語が興味深い、
一人の架空の男を描きながら、実在の人物のように世界を動かしたからです。
物語は「私」の回想で始まりますが、出会った男はエルゼアール・ブフィエで、
すでに55歳という高齢にもかかわらず、毎日ひたすら木を植えています。

それから「私」は何度となくこの男を訪ねるのですが、1914年には、
第一次世界大戦があり、さらに第二次世界大戦も起きている時代です。
しかしブフィエはそうした時代に関係なく、黙々と木を植えて、
いつしか荒廃した砂漠だった土地が、活き活きとした森に再生するのです。
物語ではブフィエが養老院で亡くなるまで描かれているのですが、
実はこの物語はフィクションで、ブフィエは実在してはいないのです。

62年前に一人のフランス人が描いた物語は、多くの人に受け継がれ、
「木を植えた男」のブフィエは、実在した男の生き方だったかのように、
世界中の国々で語り継がれ、環境保護や植林のシンボルにもなったのです。
物語だけでも魅力的なのですが、フレデリック・バックの絵もすばらしくて、
さらには音楽もマッチした、心に残る名作に仕上がっているのです。

子どもが見て理解するには、ある程度の年齢が必要と思いますが、
物語はシンプルなので、物語を知って考えることから始めればいいでしょう。
やがてこのアニメの風合いがわかる頃に、もう一度見ることによって、
さらに深く人間を理解して、こうした表現の魅力にも気付くはずなのです。
DVDに収められたその他の作品も、優れているとは思いますが、
やはりこの「木を植えた男」は、長く人の心に残る作品だと感じました。