人的利益と資本利益

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今や世界中で注目されている、フランスの経済学者、
トマ・ピケティが、明日1月29日に初来日の予定です。
すでにNHKでも、彼の「白熱教室」が放送されていますし、
彼の著書である『21世紀の資本』は、学術書にもかかわらず、
日本でもベストセラーとなって、図書館でも順番待ちです。

そのピケティが来日して何を語るのか、注目されていますが、
東洋経済の来日直前インタビューで、興味深い発言があります。

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「確かに日本の国家のバランスシートは資産と負債がほぼ同量に
 なるまで悪化した。ただ、日本は公的資本(純資産)の減少分よりも、
 民間資本(純資産)の増加分がずっと大きい。これはどちらかと言えば、
 よいニュースだ。日本は欧州と同じで、政府は貧しいが、
 民間資本によって国全体の資本はかつてないほど豊かになっている。
 
 国民所得に比べて民間資本がこれほど大きい国で解決策は何になるだろうか。
 私は日本も欧州と同様に、資本への課税を増やすことを提言する。
 国民の大半にとって労働所得は停滞している。一方で不動産、資産の
 高度な資本化が進んでいる。労働所得に対して減税、資本に対して増税するのは
 自然な解決策だろう。これはバブルを防ぐことにも役立つ。」
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ピケティの『21世紀の資本』によると、人間が得る利益には、
労働によって得る人的利益と、資産によって得る資本利益があって、
経済成長というのは、この両方の要因で見る必要があるようです。
人的利益とは、人が労働によって得る利益なのですが、
これは教育によって得る技術や教養によって、効率が上がります。
また資本利益の方も、技術革新や規模の拡大などで効率は上がるのです。

しかしながら興味深いのは、大きな経済成長が起きるのは先進国ではなく、
開発途上国での話であって、開発途上国も先進国に追いつけば、
その時点で大幅な経済成長は、出来なくなると言うのです。
日本の経済バブルも、アメリカに追いつく時期のものでしたし、
現在の中国経済バブルも、先進国の経済に追いつこうとする時期なので、
ある程度追いついてしまえば、それ以上大きな経済成長はできないのです。

この理由の最大のものは、人的資源によって得る利益は教育によって、
大幅にアップできるのですが、資本利益は人的資本ほど急成長はできないのです。
人的利益は人口増加によっても得られますので、労働人口が増えて、
労働者に新しい技術が広がる時期には、経済の急成長が起きるのですが、
労働人口が増えずに技術も最先端の国では、ゆるやかな経済成長しかできない。
そしてゆるやかな経済成長であれば、資本利益の割合は大きくなるので、
ここに「資産を持つ者」と「持たない者」の、経済格差が生まれる要因がある。

こうしてみてくると、日本のような経済先進国においては、
人口増や技術的な躍進はピークを過ぎて、大きな期待はできないので、
個人の所得や消費に、大きな課税をすることは間違っていることになります。
むしろ経済格差の要因となる資本の方に、課税を増やすことによって、
教育福祉の公的基盤を作る財源にすべき、と言うことになるようです。
金融や資産を優遇するアベノミクスは、この点でも間違っていたのです。