「恋する文学」

イメージ 1
 
図書館でたまたま見つけた、「恋する文学」は、
表紙の色合いもよくて、気になって借りて読みました。
色というものが、恋や人生を感じさせるってことを、
今更ながら感じたので、手に取ってみたと言っていい。
それを開いてみたら、泉鏡花五木寛之室生犀星など、
かつて僕が好きだった作家が、次々に出てきます。

しかもこの本は、副題に~ほくりく散歩~とあるように、
舞台は北陸のものばかりで、親近感もひとしおです。
金沢学院大学文学部日本文学科編、とのことですから、
金沢を舞台にした作品が、多く取り上げられていますが、
能登や富山、福井を舞台にしたものも載せてあります。
読んでいると、知っている地名や場所が出てきて、
次々と興味深く、作家と作品のことを読み継ぎました。

例えば高岡市片原町には、「瀧の白糸の碑」がありますが、
泉鏡花と関係があるとは知っていても、それ以上は知らない。
ところがこの本を読んでいると、詳しすぎることもなく、
適度に好奇心を揺さぶって、作品や作家との関係がわかる。
面白い文学部の授業とは、こんな感じなんだろうと、
わかったような気持ちになりながら、読み進めたのです。

取り上げられている作品には、読んだことのない作品や、
題名も知らない作品もありましたが、たとえ知らなくても、
この本を読んでいると、わかった気になってくる。
そこここに出てくる写真も、取材の様子が垣間見えるし、
金沢主計町や寺町、香林坊卯辰山など親しみのある場所や、
志賀町七尾市の今昔が、作品の舞台としてよくわかる。

いつのまにか文学オンチになっていた僕は、これを読んで、
風の盆恋歌」がどれほどの作品だったのか、初めて知って、
好きだった小津安二郎との関係に、息をのんだりしたのです。
八尾のブームは、なるほど作者の深い感性の基にできた、
優れた文学作品によって、初めて可能だったのかもしれない。
高浜虚子と伊藤柏翠の、愛子を思う気持ちなども、
読めばなるほどと思うことばかり、書かれていたのです。

本の「はじめに」に書かれている、恋愛論と言える一文は、
まことに恋愛の本質を突いたもので、心に残りました。
北村透谷の、「恋愛は人生の秘鑰なり」を引用して、
「恋愛と文学は相性がいい」と言うのは、その通りでしょう。
北陸の風土は、静かで深い恋愛を織りなすにはちょうどよくて、
僕らはその恩恵を受けて、人生を豊かにしてきたのです。