村上春樹を考える

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デビューから35年が経って、ベストセラーが続き、
今年はアメリカでベストセラー1位、と言うのですから、
今や村上春樹は、世界で最も売れている作家の一人でしょう。
アジアを含めて、50の言語に翻訳されているようですし、
日本での売れ行きを見ても、100万部単位で売れている本が、
何冊もあるという、類を見ない売れっ子作家なのです。

さらにこの作家は、群像新人文学賞を皮切りにして、
野間文芸新人賞谷崎潤一郎賞読売文学賞桑原武夫学芸賞
毎日出版文化賞受賞など、名だたる賞の受賞歴があります。
海外でもフランツ・カフカ賞フランク・オコナー国際短編賞、
エルサレム賞カタルーニャ国際賞などを、受賞しているのです。
小説はもちろんですが、エッセイでも根強い人気があるし、
翻訳家としても、優れた仕事を数多くこなしています。

そんな村上春樹ですが、実のところ僕はずっと苦手です。
同じテーマを扱った本でも、この人が書いた小説は、
超ベストセラーとなった、「ノルウエーの森」を含めて、
最後まで読みきった本が、今までのところ一冊もないのです。
どれを読んでも気が散ってしまって、途中でやめてしまい、
面白味を感じるまで読んだことが、一度もないのです。

小説も嗜好品のようなものですから、好き嫌いはありますが、
これほどの人気作家で、ベストセラーが多いわけですから、
僕のように苦手な人は、滅多にいないのだろう思っていました。
ところがNAVERによると、これだけ売れているにもかかわらず、
村上春樹を読んだ人の中で、49%の人が嫌っていると言います。
ほぼ半数の人が、彼の小説はつまらなくて嫌いだと言う、
その理由を読んでいたら、なるほど僕と同じ感想が出ていました。

「表現がまわりくどい」「・・・だから何が言いたいの?」
「この作家の日本語が嫌い」「いちいち出てくる単語がイカ臭い」
「読んでいるとイライラしてくる」「心に引っかかるものが何もない」
「レトリックだけの空虚な小説」「こんな主人公が現実にいたらウザイ」
「読むとやれやれと思ってしまう」「説得力を感じない」
こんな感じなのですが、僕も同じように感じていたのです。

それでもこれだけ多くの読者を持って、実際によく売れている、
となれば、やっぱり何か学ぶべきものはあるはずだとは思うのです。
そこで何を読んで何を学べばいいのか、と考えていたところに、
小説よりもエッセーを読んで、作品よりも意見を知ればいい、
と考えることで、一つハードルを越えられたように思うのです。
主人公に共感するところはなくても、それを書いた作家の意志を知れば、
そこから得るものは、間違いなくあるように思うのです。

エルサレム賞を受賞したときの、「こわれやすい卵」の話や、
カタルーニャ国際賞を受賞したときの、原子力政策批判などを知ると、
確かに豊かな知性があることを、認めないわけにはいかないのです。
そんな彼が最近のインタビューで、日本の「自己責任の回避」を非難し、
これからは「楽観を目指す姿勢」を、若い人に伝えたいと言い、
孤絶を超えた理想主義へ向かうというのは、まったく共感するのです。