「陽だまりの彼女」

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累計発行部数100万部を越えて、いまだに売れている、
“女子が男子に読んでほしい恋愛小説 №1”と言われる、
陽だまりの彼女」が映画になっているので、観てみました。
原作者の越谷オサムさんは、『ボーナス・トラック』で、
2004年の、日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞、
これを機に小説家になるまでは、アルバイト生活者です。

僕は以前から、この大賞を取った人の作品は好きですし、
デビュー作でこれだけの小説が書ければ、その後も期待できる。
そんな原作を、青春映画を得意とする三木孝浩監督が、
上野樹里松本潤を主人公にして、撮った映画ですから、
見る前から、ある程度の期待は裏切らないと思ってみました。
そしてたしかに、ある種の特別な印象を残す映画だったのです。

内容を言えば、夏のある日に海岸で命を助けられた子猫が、
助けてくれた男の子に恋をして、人間になって彼の前に現れる。
この教室でのシーンは、謎に満ちて印象的なのですが、
人間になった真緒は、人間としては天然系のおかしな子です。
真緒がいじめられているのを助けたことで、浩介もいじめられ、
転校したことで、二人は10年間会えないままになります。

そして再開したときに、真緒は魅力的な女性になっており、
二人は恋に落ちて、やがて結婚をして一緒に暮らす。
だけど猫の寿命は14年で、最後の時期は迫っていたのです。
真緒は最初から総てを受け入れて、人間になったので、
何も迷うことなく、後悔することもなく浩介と一緒に暮らし、
最後まで幸せそうに、二人の時間を過ごして逝ってしまう。

真緒の寿命が尽きたときに、関わった人たちの記憶も消え、
総ては無かったことのように、失われてしまいます。
そんな筈ではなかった浩介には、受け入れがたい事実ですが、
例えば猫の14年を、人間の100年にして考えれば、
恋をすることの意味や、人を信じて暮らすことの意味など、
何か大切なことが、次々に見えてくる気がしました。

この作品は、猫が人間に恋をしてその思いを遂げる、
何とも荒唐無稽の話ではあるのですが、だからこそこの物語は、
純粋な恋心をあらわして、女性の心を打ったのでしょう。
猫の14歳が人間の100歳なら、真緒は老婆になっており、
上野樹里の姿は似つかわしくない、と思ってみても、
それ以上の何かが、すべてを良しと思わせてしまうのです。

特別複雑な人間関係もなく、ありきたりのいい人達が、
この映画では問題も起こさずに、それぞれの役をこなしている。
それはまさに僕らのありきたりの日常で、その日常の中に、
一つの純粋な恋が、幻のように登場して消えたのです。
もともと恋とは、そのような幻想だとすれば尚更のこと、
僕らは幻の物語を、大切に活きる存在なのでしょう。