「奇蹟のリンゴ」

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木村秋則さんの、無農薬リンゴのことは、
自然農をやっていない人でも、奇蹟のリンゴとして、
すでに有名なので、知っている人は多いでしょう。
無農薬では、害虫や病気の被害を防げない、
と言う常識に立ち向かって、農薬を使わずに、
酢やお茶など、無害なものでリンゴを守ろうとする。

だけど何を使ってもうまくいかないで、9年を過ごし、
家の蓄えや財産を、全部使い果たしてしまう。
「やめてしまうなら、私らの貧乏は何だったのか」
と訴える娘さえ、ストレスによって病気になり、
彼は絶望の果てに、自殺することを考えます。

ところが、首をくくろうとして入っていった山中で、
リンゴによく似た木が、健康に育っているのを見ます。
彼はそこで、自然界の有り様に気付いたことで、
草や虫を敵としない、自然農に目覚めます。
彼がもしも川口さんの、指導を知っていたなら、
もう少し早く、自然の摂理に気付いたかも知れません。

そんなことを考えながら、この映画を見たのですが、
僕らが求めるのは、単なる真実などではなく、
人間としての物語性なので、この映画は魅力的です。
子ども時代から、青年になるまでの彼を描いて、
彼の性格や、妻との縁を知っていることが大切でしょう。

義理の父は、かつて戦場で食べ物がないときに、
農薬や肥料が何もないまま、畑を開墾して食料を得た。
その時のことを思い出しながら、秋則さんの応援をして、
戦場へ行くつもりで頑張れ、と励ましてくれるのです。
9年続いた失敗にもかかわらず、義父と妻は、
最後まで彼を応援して、10年目にそれが報われる。

どうしてそんなに、頑張る必要があったのか、
もっと楽に、減農薬程度で住ませる選択もあったはず。
それをどうしても、無農薬にしたかった理由は、
妻が農薬に弱くて、それでもリンゴ農家を続けたい、
ただそれだけのことを、命がけで頑張った記録映画です。

結果だけを見れば、僕らの自然農と同じ気付きで、
10年の回り道は、あまりにも遠かった気がしますが、
そこで得たものは、単に無農薬のリンゴだけではないのです。
人が生きるとはどういうことか、自然とは何か、
様々な覚醒があって、それが無農薬のリンゴになっていく。
この物語性こそ、僕らは味わう価値のあるものなのでしょう。