「玄牝(げんぴん)」

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河瀬直美が監督したことで、新鮮な視点が表現され、
出産がある種の、神秘的な女性だけの世界だと分かる作品です。
この映画「玄牝」は、2010年の11月に公開されて以来、
出産を考える多くの女性に共感されて、上映会が繰り返されており、
今年になっても、日本各地で上映会が開かれていますから、
僕も一度は見ておきたいと思って、上映会に行って来ました。

映画の内容は、愛知県岡崎市にある吉村医院を舞台に、
出産を控えて集まってくる、女性たちを描いたものでした。
院長の吉村正医師は、薬や医療機器などの人工的な介入をせず、
女性が本来持っている“産む力”を信じて産む「自然なお産」をする、
と言うことで、自然分娩を望む多くの女性が全国から来るのです。
現代ではそれほど、自然なお産が減っているのでしょう。

僕自身は、妻が妊娠して出産をどうするかを考えたときに、
二人とも自宅での自然分娩を望み、それが当たり前と思いました。
だけど現実は簡単ではなく、自宅出産をするためには、
請け負ってくれる助産士さんと、サポートの医者が必要で、
多くの人はこの時点で、選択肢さえなかったりするようです。
僕らは幸い、よい助産士さんと病院のサポートを受けて、
いくつかの検査にも問題なく、自宅出産が許されたのです。

だけど女性が自宅で子どもを産む、このあたりまえのことが、
医者の許可を得ないと出来ないのは、どうしてなのか不思議です。
吉村医師は、現代の産婦人科の考え方の根底に横たわっている、
母子ともに死なせない、安全出産に対して苦言を呈します。
人には死が隣り合わせにあるから、生が感動的になるのだとして、
出産とは本来的に、母子ともに死の危険をはらんだものだと受け止め、
死に対比する出産を、喜びのうちに受け入れることを諭すのです。

もちろん僕らには、出産に対して何の知識も経験もないので、
専門家のサポートが必要で、そのために医師や助産士さんにお願いして、
診てもらいますが、人工的な医療行為はなるべく少ない方がいいはずです。
生む側の女性が、自由な心のままに出産の喜びを味わって産む、
たったそれだけのことが、社会では当たり前のことではなくなっており、
自らの意志による選択肢もないままに、医療行為が入るのです。

映画の中でも、こうした現実を理不尽だと思う吉村医師が、
自らが信じる出産の在り方を、妊婦たちに教えることで、
安心して出産できるように、導いていく姿が印象的に見えました。
出産は恐いものだと思い込まされている、若い女性たちが、
もっと喜びに満ちたものとして、捉え直す感覚が伝わるのです。
この喜びに満ちた感動が、見る側にも伝わってくるような映画でした。

上映会が終わったあとで、意見を言う機会があったので、
僕は現代の常識となっている、子育ての予防接種に対しても、
出産と同じように、薬や医師の都合が優先している現実を訴えました。
僕らの社会はいつのまにか、個々の命を大切にすることを忘れ、
経済効果と同じように、安全効果を優先させています。
だけどその裏で踏みにじられる、個人の感性こそ大切で、
それぞれの物語性こそ、生きている価値と証だと思ったのです。