「原発ホワイトアウト」

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この本「原発ホワイトアウト」は、昨年9月に出版された、
政府の内部事情を知る霞ヶ関の官僚による、暴露的な小説です。
小説形式は取っていますが、多くの登場人物も誰のことかわかるし、
リーク時代に相応しく、政府と電力会社の癒着を暴きながら、
今の日本を支配する構造がどんなものか、明瞭に書かれています。

出版されてすぐに、あまりのリアルさから話題になりましたが、
半年もしない内に忘れられ、過去の本になろうとしている。
だけどこの本に書かれた内容は、今もこの国の実情であって、
たぶん何一つ変わっていないし、変わろうとしてさえいないのです。
潤沢な政治資金をばらまく電力会社が、政治家を私物化しており、
世論を操作するために、マスコミから検察までを利用している。

この本の中では、電力会社はどのように政治を動かしているのか、
巧妙な手口が確立されて、簡単には変わらない構造になっていることや、
改革をしようと動き出す人たちを、どのように潰しているのか、
小説形式の物語として、簡潔明瞭に描き出しているのです。
はたしてこんなひどい現実があるのか、と思う人もいるでしょうが、
むしろ多くの人は、やっぱりそうだったのかと思わされることでしょう。

脱原発を訴えて当選した山本太郎参議院議員を思わせる「山下次郎」。
事故以前から原発問題を詳しく知って、多くの疑問を発言し、
与党内で戦い続けた、自民党河野太郎衆議院議員は「山野一郎」。
再稼働に向けて、安全審査の申請を出したい東京電力に対して、
安全対策の不備を追求する新潟県の泉田知事を思わせる「伊豆田知事」。
そのほかにも登場人物の多くが、読めば誰のことかわかるのです。

さらに総理や幹事長や、東電の幹部や経済界のドンのような人たちも、
誰だか暗喩しながら、とんでもないことをしていることが書かれている。
しかもこの非道なことが、日本では犯罪にならないばかりか、
異議を唱える者は徹底的に攻撃されて、失墜する様子も描かれている。
これだけの非民主的でひどい政財界が、日本社会を牛耳られるのは、
日本人がお金さえあればどうにでもなる国民に、成り下がったからでしょう。

この本では特に後半部分の、第10章「謎の新聞記事」から、
第16章の「知事逮捕」まで、あまりにも日本の現実を描いているので、
読むのがイヤになるくらいでしたが、そのぶん読み応えもありました。
筆者が現在も霞ヶ関の省庁に勤務する、東大法学部卒の1級国家公務員なら、
この内容は相当に身の回りにある、現実のことだろうと思われます。
小説も破綻なく、書きたいことがうまくまとめられている感じでした。

小説では止まっていた原発は、経済界の思惑通り再稼働になるのですが、
その結果に何が起きるのかは、やはり多くの人が憂慮した通りに、
再度の原発事故であり、メルトダウンでしかないのでしょう。
匿名著者の若杉冽さんは、あるインタビュー記事の中で、
次のようにコメントしているのが、一つの救いに思われました。

「直接見聞きした事だと、公務員の守秘義務に関わります。
 間接的に見聞きした事だと、報道機関は裏がとれないと流せない。
 でも、間接的に見聞きした事が、裏がないからといって真実ではない
 わけではなく、真実を伝えるためには小説をやむにやまれずというか、
 押さえられない気持ちで書いてしまいました。原発推進に向けて、
 悪巧みが進んでいるのを知りながら、それを国民に伝えないほうが怖いし、
 良くないと思いました。」

公務員を縛る秘密保護法は、このあと一気に法案が成立したのです。