「禁城の虜」

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ノンフィクション作家の加藤康男さんによる、「禁城の虜」は、
ラストエンペラー私生活秘聞~、と副題が付いている通り、
愛新覚羅溥儀の生涯にわたる、数奇に満ちた私生活を描いた本です。
とは言え、溥儀の生涯には私生活などあったのかどうか、
産まれたときから宦官や女官に世話をされ、自分では何も出来ず、
2歳9ヶ月で皇帝の座に着いて、6歳で皇帝の座を降ろされ、
生涯においてはさらに2度、皇帝になっている男の私生活です。

日々の暮らしは、すべて宦官によって記録されていたようですし、
下着一つ自分では付けられなかったとは、本当なのかどうか?
生涯に4人の妻を持ちながら、まともな性交渉が出来なかったので、
一人の世継ぎもなく、暗殺されることを恐れて過ごしていたとは、
僕らのような一般人には、想像の及ばない精神世界だったのでしょう。
そんな男の生涯を、裁判記録を中心に年代を追いながら、
生き残っている人たちの証言で、その真相に迫る内容の本です。

長い話を飽きさせないためか、物語を読むような感じで話が進み、
溥儀の他にも、そばにいた宦官が大勢描かれているのですが、
この宦官がどういうものか、知識でしかわからない僕にとって、
やはり想像の域を出ない、何か別世界の物語のようでした。
歴史としてみれば、宦官制度は間違いなくあったはずですが、
宦官を必要とした宮廷、妻が複数人の制度もまた別世界に感じます。
ノンフイクションでありながら、あまりにもドラマなのです。

歴史上残虐で有名な西太后により、その指名で皇帝になった溥儀は、
同じような残虐性と、気まぐれな性格があったようですが、
それ以上に顕著なのが、時の権力におもねる極端なへつらいです。
苛立つ気持ちを宦官などに八つ当たりしながら、表面は平静を装い、
満民の皇帝意識が強いにもかかわらず、自ら行動を起こすこともない。
皇帝になったことさえ、自らの意志ではなかったのだと思えば、
わからないでもないけど、何とも弱々しい精神です。

この弱さ故に、最後は共産党員になってでも生き延びようとする、
生きることへの執念は、誰にも負けないものを持っていたようです。
それでいて、子孫後継者を残す能力はまったく無かったようで、
若い頃には同性愛にふけり、長じてはEDを治そうと努力している。
今ならバイアグラなどの特効薬がありますが、当時はないので、
どんな努力をしたのか、同情したくもなるのですが、
生涯4人の妻に、それぞれ子がいても大変だったでしょう。

この本を読み終えてみると、確かに最後の皇帝の話ではあっても、
現代に合わせてみれば、むしろ生涯に愛を知らない男の話でしかない。
それぞれの妻との関係において、どんな気持ちで暮らしていたのか、
結局はそこのところが、もっとも関心を持って読めたのです。
最後の皇帝の話でありながら、政治的な内容には一切関わらず、
常に蚊帳の外で、城内でのみ権力を振るった小心な男は、
現代人の孤独な精神に、どことなく通じている気もしました。
 
 
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