「県民健康管理調査の闇」

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昨年9月20日に、岩波書店から出版された新書ですが、
たまたま図書館で見かけ、読んでみて強い印象を受けました。
福島県発事故のあと、周辺地域の人々の健康を調査することは、
現在の当事者だけではなく、避難者と居残り者の比較からも、
5年後10年後の様々な判断に、なくてはならない資料になる。
そんな大切な資料が、どのように作られていったのか?
この本を読むと、首をかしげたくなる行政の対応があります。

と同時に、この本を読んでいて一番強く思ったのは、
著者である毎日新聞の社会部記者、日野行介さんの熱意です。
僕はインターネットの時代になる以前から、現代のマスコミが、
ジャーナリズムを離れて、利益追求企業になっていることを感じ、
ネットで情報が見られるようになると、新聞購読を止めました。
新聞は図書館でしか見なくなり、報道されない重要なニュースに対し、
僕自身もブログで、時々ですが発信するようにもなりました。

今ではテレビは、芸能バラエティの受信機だと思っていますし、
新聞は政府や企業に都合のいい記事の、読み物雑誌だと思っています。
それでも様々な事件に対して、最初に取材できるのは新聞社であり、
通信社だと思うので、こうした情報取材・発信企業に対しては、
批判しながらも、質のいい記事を書いてほしいと願っているのです。
そしてこの本を読んだことで、日野行介さんがどんな思いで、
県民健康調査を取材され、記事にされたかを知ることができました。

たぶんこれは、日野さんが毎日新聞の社会部だったことで、
可能だった、貴重な追跡取材になり得たのだろうと思います。
主要新聞では毎日新聞東京新聞だけが、沖縄や福島の市民の目線で、
その他の新聞テレビでは扱わない、ニュースを流してくれるからです。
言い換えれば、現代がいかに情報隠蔽の時代になっているのかが、
否応なく見えてくる、新聞記者による取材の記事であって、
僕らはこの2つの事実を、この本から読む必要があるでしょう。

取材で追求されない限り、自分たちに都合のいい調査と発表で、
事実よりも「安心させること」を優先する、福島行政の現実があって、
多くの人が疑問に思っていても、行政は隠し通そうとされる。
著者も「あとがき」の中で言っていますが、特に低線量被曝では、
評価の違いが大きく、原発推進側では評価を小さく見せようとする。
しかしどんな結果が出るかわからない調査であればこそ、第三者による、
先入観のない調査が必要なことは、あまりにも明らかでしょう。

国連人権理事会の指摘を受けても、なお直らない行政体質は、
首長選挙において選んだ長の、裏に隠れた体質なのかも知れません。
調査に対する検討委員会のメンバーも、どんな考えの人にするか、
それはあらゆる検討委員会のメンバー選出にも、言えることで、
三者の目を持つ人を揃えることが、選任者の使命でもあるでしょう。
それを監視できるのは、やはり一番に取材のできる新聞記者だから、
僕は日野さんのような記者が、さらに活躍されることを祈ります。