「なずな」

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集英社から、「待望の長編“保育”小説」
と謳って出版された「なずな」を読みました。
初出は2008年9月号~20010年9月号で、
本になったのが、2011年の5月ですから、
必ずしも、新しいわけではないのですが、
やっぱり保育小説というのは、珍しそうです。

437ページの長編ですから、読むのが大変かも、
と思って読み始めたら、思いのほかすらすらと読める。
なにしろ中年で独身の男主人公が、諸事情があって、
突然2ヶ月の赤ん坊を預かる、と言う話ですから、
2ヶ月余りの子育てをしている、僕にとっては、
それだけでも、興味深く読み進められた気がします。

だけど読み進めるうちに、現実の日々の方が、
小説よりも次々に多くのことがあって、刺激的で、
小説の方は、どうしても教養小説のような、
物足りなさばかりが、目立つようになりました。
主人公のキャラが理屈っぽい、だけではなく、
小説自体がなにかありきたりで、距離があるのです。

最近の小説は、やたらと長編が多くなってきて、
小説なら内容的に光る、文章を読みたいのに、
説明ばかり多い小説が、増えているような気がします。
いろんな事を知っている教養人が、当たり障り無く、
まるで調べものをして書いたような、そつはないけど、
なにが面白いのかわからない、ともかく長編の文章です、

読み物としては、苦もなく読めるのですが、
いわゆる感動や驚き、刺激的なことがまるで無い。
2ヶ月半の赤ん坊である、なずなの描写なども、
無垢な黒い瞳だけが強調されて、現実ならもっとある、
細かい手の動きや動作、表情などが見えないし、
結果として、なずなを思い描くことが出来ません。

以前の僕のように、赤ん坊が身近にいなくて、
ある種の観念的な見方で、読んでいたなら、
もっと共感したかも知れませんが、今はダメです。
すぐ身近に2歳半の子がいて、日々面倒を見ていると、
小説以上の物語が、毎日起きているのですから、
この本では、何事も無さ過ぎるのです。

なずなを描くよりも、主人公の身の回りなど、
仕事のことや町の様子などは、よく描かれているけど、
これでは何を描きたかったのか、わからないのです。
こういう作品が珍しいだけでは、少々物足りないし、
現に子育てしている人には、あまり面白くもなく、
もっと“なずな”を描いて欲しかった気がするのです。