「ふみこよみ」

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山本ふみこさんの、「ふみこよみ」を、
図書館で見かけて、なにげなく手に取りました。
ぱらぱらとめくってみたら、何だか親しみが沸いて、
家に持ち帰って、ゆっくりと読んでみました。
するとこれが、なんとも言えずに好もしくって、
最後まですらすらと、共感して読めました。

表紙の右上の方には「春夏秋冬、暮らしのおと」
なんて書いてあるとおり、日常のささやかなことが、
さりげない文章で、かわいく上品に書いてあるのです。
山本ふみこさんって、いったいどんな人なのか?
昔風の楚々とした美人で、人付き合いが苦手な、
少女っぽい風情を想像しながら、読み進んだのです。

エッセイですから、小さなエピソードが書いてあり、
中でもいくつか、忘れられないものがありました。
例えば夏の窓越しに見た、ダンゴムシとおばさんのお話や、
不便と便利さを考えた「先まわりオバケ」の話など、
すらすらと読み終えながら、深く何かを考えさせます。
僕らが年を経て失った、あるいは時代を経て失った、
大切なものを、もう一度取り戻したい気持ちにさせます。

「にちにち」の中でも、書いておられることですが、
そこには東日本大震災が色濃く反映して、思いとなり、
自分の暮らしを、一日一日を大切にしたいと言うのです。
「一日一日を大切に思う気持ちは、
 この世を変えるほどの力を持っている」とは、
大震災を経て初めて、確信を持って言えるようになる。
この思いに共感して、この本のすべてに共感できるのです。

読み進みながら、この本の魅力って何かと考える時、
それは日本人が忘れかかっている、“品”のようなもの、
上段に構えて「日本人の品格」などと、下世話な感覚ではなく、
そこはかとなく匂うような、上品さなのでしょうか。
日常を描いただけの文章から、漂ってくる気配に、
大切にしたいものを、思い出さずにはいられないのです。