「種まく旅人」

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年末に5本の映画を借りてきて、年始に見ましたが、
その中で一番面白かったのが、「種まく旅人」でした。
農政官僚の大宮金治郎(陣内孝則)が、金ちゃんと呼ばれ、
日本各地の農業生産現場で、汗をかいて作物作りをする、
それ自体異色なので、変わり者呼ばわりされているわけですが、
現場の農家を助けるには、深いわけもあるようです。

そんな金ちゃんが、大分のお茶農家である森川修造の所へ、
久しぶりに訪ねてきた時、修造の孫でデザイナーの卵、
みのり(田中麗奈)と出逢い、直後に修造が倒れてしまいます。
無農薬の有機栽培で、お茶を育ててきた修造でしたが、
ようやく収穫の7年目を迎えて、大切な時期に倒れてしまい、
ちょうど失業したみのりが、しばらく手伝うことになるのですが。

跡継ぎのいない農家の姿や、自分の思う農業が出来ない若者、
経営にばかり目が取られている、地方農政の実体など、
現代日本の農業の縮図が、とてもよく表されている映画で、
まず僕は、2010年に見た「未来の食卓」を思い出しました。
「未来の食卓」はフランス映画で、村の農家が使う農薬に、
深い疑問を抱いて、市長の決断でオーガニックな村に変身する。
http://blogs.yahoo.co.jp/isop18/60487061.html

これと同じように、「種まく旅人」でも有機栽培が見直され、
青年団の若い市役所職員が、市の学校給食で地元の有機野菜を使う、
企画プロジェクトを提出するのですが、認めてもらえません。
「未来の食卓」では、市の方針として決定されていったものが、
「種まく旅人」では認められずに、最後は金ちゃんの出番となって、
桜吹雪が舞うが如く、市長の裁定でプロジェクトは認められる。

だけど現実の日本では、地方行政の下々まで官僚の縦社会だから、
金ちゃんのような人が登場して、予算が付くことはなく、
「未来の」がフランスの実話なのに、「種まく」は映画でしかない。
こうした日本の官僚や農政の、お粗末さを感じながらでも、
若い人が望んでいるのは、収益ありきの農業ではなく、
自分たちの未来を担う、食のあり方だってことは嬉しい内容です。

こうした感性が広がって、農業政策に一石を投じることで、
あるいは若い農業従事者たちに、希望を与えることによって、
新しい日本の農業の担い手が、自信を持って生きていけるように、
この映画は確かに、大きな志を共有させてくれる作品でした。
日本のアグリカルチャー映画も、少しずつ成長して、
この映画には、本物の希望を見つけることが出来そうです。