「日本人は何を考えてきたのか(明治編)」

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NHK取材班による編集本ですから、たぶん番組にもなったのでしょう。
僕はテレビを見ないので、この本をもって内容を知ったのですが、
日本の明治大正時代を、権力側からではない視点で見ているのが面白いです。
それはたとえば、自由民権運動がどのように生まれたのかを探る時に、
中江兆民田中正造、山口千代作、河野広中、千葉卓三郎、苅宿仲衛、三浦文次、
と言った人たちを理解する必要がありますが、教科書ではわかりません。

この時代はもっぱら福沢諭吉が、日本人の新しい思想を先導しますが、
彼の思想は国家が優先されており、自由や権利は国家の枠の中でしかありません。
しかし中江兆民ほかここに挙げた人々は、もっと本質的に人間の在り方を追求し、
その中で自由民権を考えているので、現在に通じる思想展開があります。
当時の時代に迎合した福沢諭吉のような人物は、当然多くの支持がありますが、
時代を先んじすぎて迫害を受けた人の中に、注目すべき考え方が潜むのです。

さらに植木枝盛南方熊楠堺利彦幸徳秋水などが出て自由民権は育ち、
新たに社会主義思想として、中央政府と対立して行ったのが日本の歴史です。
この中で中江兆民田中正造河野広中、山口千代作などの面々は、
1890年の第一回衆議院議員選挙で当選し、国会議員にもなっている。
それにもかかわらず日本政府は、富国強兵や殖産興業を目指して突き進み、
ついには日清・日露の戦争へと突入することで、自由民権運動は姿を消していく。

戦後の憲法作成において、憲法学者鈴木安蔵が作った草案が基になっている、
と言われていますが、この鈴木案をさらに遡れば千葉卓三郎の憲法案があり、
そのまた以前には、植木枝盛憲法草案が影響していただろうと言われています。
植木枝盛は土佐の人ですが、当時は福島と土佐で自由民権運動が広がり、
多くの人が往き来して、活動を広げていたことも広く知られるところでしょう。
当時の自由民権は、現代に通じる思想が出来上がっていたとも言えるのです。

この自由民権において問われてきたことが、自由や権利は誰のものか?
国や天皇から与えられる自由や権利か?、市民が本来的に持っているものか?
こうした論争は今も続いており、現在多くの政党は国民の権利と考えていますが、
自民党だけは違うようで、憲法改正案において天皇主権を提案しています。
さらに自民党などは家庭が大事とは言うのですが、その家庭の内容が問題で、
かつての堺利彦が家庭の中に問題があるとした、男性中心の思想のままなのです。

さらに言えば、今回の東北大震災や福島原発事故で明らかになったように、
今の日本の文化文明は、当時の田中正造足尾鉱毒事件を批判して言った言葉、
「真の文明は山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」
がそのまま当てはまり、何も進歩していないことがわかります。
自由民権運動の中でも、公共の利や男女平等の思想がすでにあるのですが、
今またこうした人権よりも、全体主義的な正義が台頭しつつあるのが残念です。