「GNHもうひとつの〈豊かさ〉へ、10人の提案」

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辻信一さんが、スローライフで親交のある10人に、
様々な視点から豊かさを考えてもらい、本に纏められたのが、
「GNHもうひとつの〈豊かさ〉へ、10人の提案」です。
経済成長ではない、新しい豊かさとはどんなものか、
この本を読めば概要がわかるので、ご紹介しておきます。

内容的には、僕が普段このブログで書いているようなことで、
イソップ通信の読者には、目新しいことではありませんが、
世界で活躍されている人たちの言葉は、個性的で重みがあります。
それを読むことで、再確認できることも多いですし、
言葉だけでは伝わらないことも、実践を通せば見えてくる。

と言うことで、10人が書かれた記事の内容から、
僕が心に残ったところを、ピックアップして紹介します。

● 辻信一さん
 すでに何度も紹介している、スローライフの先駆者です。
 今回の記事の中では、戦後の日本をパックス・エコノミカと捉え、
 平和も豊かさも、経済を通してしか見えなくなっている現状を、
 危険なものとして、それに替わる豊かさをブータンに見出します。

● 大木昌さん
 東南アジア史の学者で、辻さんと同じGNH研究会のメンバーです。
 日本における自殺の急増や、日本人に幸福感が乏しい実情を、
 人間の関係性の中で見出して、物ではなく心の貧しさが原因と考え、
 序列ではない並列社会への転換が、必要だと分析されています。

● 坂田裕輔さん
 環境問題やゴミ問題に取り組んでいる、環境経済学者です。
 GDPの増大を命題のようにして、経済成長を目指す社会に対して、
 経済が0成長だと、どうしていけないのかと問い掛けながら、
 経済成長の目的よりも、生き方の手段の方が大切だと訴えます。

● 西本郁子さん
 社会的な時間意識の違いに関心を持ち、研究活動をされています。
 日本と西欧の比較においては、明治時代は欧米が早くて日本が遅い、
 だけど多くの知識人が、性急になる時間感覚を危惧したとして、
 急行よりも鈍行の旅を勧めた、谷崎潤一郎の感性を紹介しています。

● ヘレナ・ノーバーグ=ホッジさん
 世界に「ラダック 懐かしい未来」を発表した言語学者です。
 人が不安や不満を抱くほど、経済が成長することに疑問を抱き、
 人が幸せであれば、経済は成長しないことを見抜くことで、
 経済成長とは、人を不幸にして成長することだと喝破します。

● 島村奈津さん
 日本にスローフードを紹介した、ノンフィクション作家です。
 経済成長に合わせて均質化した食品には、味わいがないとして、
 小さなお店での会話のある買い物、均質化しない食材による生活が、
 ひいては人間にも、味わいのある豊かさをもたらすとしています。

● 結城登美雄さん
 東北の農山漁村をフィールドワークとする、民族研究家です。
 昭和40年代に多くの人が、村を捨てて都市へ移住したときに、
 「自然は寂しい、しかし人の手が加わるとあたたかくなる」
 と言った先人の言葉を紹介しますが、僕はこの言葉が大好きです。

● アンニャ・ライトさん
 環境活動家としても有名な、シンガーソングライターです。
 マレーシア・サラワクの森で、人間の在り方に目覚める話から、
 自らの子供を産む、出産という経験を通して知る様々なこと、
 子どもに合わせて生きる、スローな時間が魅力的です。

● サティシュ・クマールさん
 シューマッハー・カレッジを創設した、ジャイナ教の修行僧。
 2年半を掛けて、無一文で世界を平和巡礼した経験から、
 人に必要なのは、お金ではなく自分や人を大切にすることだと考え、
 日本人はもう一日4時間か、週3日労働でいいだろうと提案します。

ダグラス・ラミス
 元沖縄駐留の海兵隊員で、平和を紡ぐ旅を続ける政治学者。
 管理されて苦しく、疎外された労働ではなくて、自由な意志により、
 自らの体を使って働くことの楽しさこそ、人生を豊かにするとして、
“You are what you buy”から“You are what you make”へ転換を勧めます。

最後に辻さんは、イギリスの政治家デビッド・キャメロンが提唱する、
「幸せの政治」から、幸せ度の指標を次の三つだと紹介しています。
1【家族との安らかな時間】=素肌の交わり
2【地域の自然環境の豊かさ】=自然との交わり
3【各人がコミュニティで果たす役割】=社会との交わり

人は誰でも、他者や社会に認めてもらいたいと思っており、
自らの役割があることが、幸せであることの必須条件なのです。
お金だけあっても、役割が無く、誰からも認められないのであれば、
それは捨てられた民と言うしかないでしょう。