「ソーシャル イノベーション」

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松行康夫、松行彬子、松行輝昌、三人の共著によって、丸善出版から、
今年の7月末に出版された「ソーシャル イノベーション」を読みました。
ちょうどグラウンドワーク・インターシップの研修に、参加した時期でもあり、
研修で学んだソーシャル インキュベーションの意図が、よくわかった気がします。
そもそもなぜ最近、ソーシャル(公共)関係が持て囃されるかと言えば、
景気の低迷と政府の莫大な赤字財政によって、行政が公共を担いきれなくなり、
さらには市民ニーズが多様化して、一律平等にしか動けない行政が間に合わない。
そこでNPO社会起業家を育てて、公共ニーズに対応させようとするのでしょう。

実際にこうした本が発行されるまでもなく、市民活動は活発になっていて、
その活動する範囲は、福祉や文化活動から環境事業まで多方面に渡っています。
先日参加したグラウンドワークの研修会でも、様々な方面を目指す人が集まって、
熱気に満ちた雰囲気でしたが、そこで共通するのは社会起業家の育成です。
そうしてみると、何をいまさら本で学ぶことなどあまり無さそうですが、
読んでみると、さすがに現代の状況を俯瞰的に網羅してうまく整理されている。
中で前半の概要解説的な部分は、さほど興味を持てなかったのですが、
後半にある国内での具体的な取り組みの解説は、多いに興味が持てました。
それをしっかり社会学的に解説してあるところも、好感が持てます。

例えば第12章の「社会から信頼される企業と交渉による問題解決」において、
想定外の不祥事に対応するリーダーの資質が、ソーシャルイノベーションにも必要!
とか、「創造的問題解決型交渉」の話には、思わず内容にのめり込んでいました。
そして具体的な実例が、長野県小布施町で行われた忍耐強い話し合いの結果、
お互いに譲るものと受け取るものを組み合わせ、組み替えによるまちづくりをする。
あるいは神奈川県真鶴町では、まちづくりを「美の原則」に基づいて考えることで、
特別伝統的な美しさは無いにもかかわらず、配慮に富んだまちづくりをして、
眺めの良い敷地などは、隣近所からも眺められるよう考えられたまちになっている。
こうした実例をいくつも読んでいると、そこには共通した民主主義の理解があり、
良いアイデアであっても強引に押し進めたりしない、話し合いが根底にある。

さらにどうやってこの話し合いをまとめるかが、新しいリーダーの資質だとわかる。
最後にこの本では、最近の新しい傾向として大学の人材育成プログラムを紹介し、
「合意形成による問題解決」を学び、実践できる人を育てようとしていることがわかる。
そうすると最初に戻るようではありますが、ちょうど僕が参加した研修も、
同じような意図に基づいて、企画されたものだと理解が深まってくるのです。
どちらかと言えば、大学のテキストになりそうな内容や纏め方ではありますが、
最近の社会の傾向を的確に捉えて、市民活動の役割も的を外さずに解説しており
社会起業家を目指す人なら、読んでみることをお勧めしたい一冊でした。
一つの教養としても、ここまで深めていれば立派に論も立つでしょう。
 

松行康夫、松行彬子、松行輝昌、三人共著の「ソーシャル イノベーション」は、↓こちら。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4621084267/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=isobehon-22