「脱成長の道」

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久しぶりに、少しでも多くの人に読んでもらいたい、
超お薦めの本に巡り会いましたので、ご紹介しておきます。
勝俣誠さんと、マルク・アンベールさん編著によって、
今年5月にコモンズから発行された「脱成長の道」と言うものです。
3.11以後、新しい社会の価値観を模索する本は数多いですが、
この本に書かれている内容は、最も当を得ていると思われます。

執筆者とそれぞれの表題、さらに簡単に内容を書くと、
およそ次のような、本の内容構成になっています。

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第Ⅰ部 簡素に生きる

(1)「脱成長」の道 ーー つましくも豊かな社会へ
  セルジュ・ラトゥーシュ・・・パリ第11大学名誉教授
     以前から“経済成長なき社会発展”の可能性を問い掛けて、
     フランスの政界にまで影響を及ぼしてきた、哲学者による寄稿。
     経済成長優先の社会から、連帯的社会のつましい豊かさへの転換を説き、
     自律的な「脱成長」社会に向けて、8つの再生プログラムを提唱します。

(2)「脱成長」の正義論
  中野佳裕・・・国際基督教大学研究員
     ラトゥーシュが書いた「経済成長なき社会発展は可能か」を、
     日本語に翻訳した人で、「ポスト開発問題の倫理」などを手がけている。
     この本では、山口県上関町祝島の住民による、原発建設反対運動から、
     贈与と感謝の文化を見直し、社会正義における「持続可能性」と、
     「多様性の承認」を、これからの基本原理と捉えています。

(3)南北格差と「南」の豊かさ
  勝俣誠・・・明治学院大学国際学部教授
     国際政治経済論を専門として、「アフリカは本当に貧しいのか」など、
     グローバル化による南北問題や、市民社会の動向に関心を持つ。
     ここでは、現代の開発とは何だったのかを明らかにしながら、
     南の国々が北の発展を追う展開の限界を指摘し、
     「追いつかなくていい」多様な世界の発展を説いています。

(4)良き生活へどう変えていくか
  パトリック・ヴィヴレ・・・哲学者として、
     国際プロジェクト「人間性の対話」を共同提唱している。
     ここでは、現代の先進国の生活を、過剰で節度のない生活と糾弾する。
     現代社会の特徴である「麻薬産業」「軍事産業」「宣伝広告」は、
     世界のあらゆる貧困を無くす規模なのに、社会に破壊と倒錯をだけをもたらす。
     これを克服するには、分かち合いの社会が必要だと説いています。

第Ⅱ部 コンヴィヴィアリズムが拓く世界

(1)ラディカルな社会主義としてのコンヴィヴィアリズム
  アラン・カイエ・・・パリ第10大学教授
     経済学と社会学の専門で「功利的理性批判ーー民主主義・贈与・共同体」を著し、
     ここではまさに、イリイチが提唱したコンヴィヴィアリズムを、
     新しく民主社会主義の手法として、再活用することを提唱している。
     経済優先の古い価値観からの転換を、宗教的な変革と捉えているのも面白く、
     それほどまでに現代人は経済を信じているから、変革が困難でもあるのでしょう。

(2)生命系と地球主義に立脚した経済の実現に向けて
  丸山真人・・・東京大学大学院総合文化研究科教授
     経済人類学者として、「多元的経済社会の構想」を著すなど、
     人間の安全保障に関心を持ちながら、経済学の捉え直しをしている。
     ここでは、市場経済を中心とした経済学を狭義の経済学と捉え、
     もっと広く、自然界全体の循環を見据えた経済学の必要を説いています。
     この視点をわかりやすくするため、地域経済の自立を基本と捉えます。

(3)社会主義も資本主義も超えて
  マルク・アンベール・・・レンヌ第1大学教授
     「人間と社会のための新しい経済学的知に向けて」を著した経済学者。
     ここでは、「社会主義が人間による人間の搾取に対する闘争のプログラムで
     あったのに対して、イリイチに倣って提案するコンヴィヴィアリズムは、
     様々な産業的・制度的道具による人間の搾取に対抗する闘争のプログラムである」
     と記しているところに、言わんとすることの要点が集約されています。

第Ⅲ部 本当の幸福について考えてみよう

(1)社会的責任の分かち合いのための政策的枠組み
  ジルダ・ファレル・・・欧州評議会社会的紐帯研究開発局長
     現在欧州評議会で草案中の「社会的責任の分かち合いに関するヨーロッパ憲章」
     の内容を引き合いに出しながら、国や政治体制を越えた、
     万人の生活の質の向上を目指す新しい流れについて、持論を展開。
     参加型民主主義による、公共の場での熟議に基づく政治や合意形成こそが、
     新しい時代を開くものとして、提唱されています。

(2)生活充足度の新たな指標を地域でつくる
  ミシェル・ルノー・・・レンヌ第1大学準教授
     「交換の社会関係」など、経済思想史が専門の経済学者であり、
     今までの豊かさ指標とは違う、数量化出来ない価値について考えることで、
     「豊かさ」と「生活の充足度」の指標を作成しています。
     その成果、ブルターニュ地方で行われた「地域別生活充足度指標」を紹介し、
     具体的な指標作りの手がかりを提示しています。

(3)生活の質の向上のためのアプローチ
  サミュエル・ティリオン・・・欧州評議会社会的結合・研究促進部局行政官
     農学者で社会経済学者でもありますが、さらに具体的な指標として、
     充足した生活のための八段階を示し、充足した生活の在り方を探ります。
     「良い消費とはどのようなものですか」「悪い消費とはどのようなものですか」
     「良い消費行為を発展させるために何を行うことが可能ですか?」
     こうした三つの質問を繰り返すことで、意見の集約を実践的に試みますが、
     ここで重要なのが、認め合いと協調であることも明確にします。

(4)日本人が本当に幸福になるために
  西川潤・・・早稲田大学名誉教授
     「人間のための経済学」など、国際経済、開発経済が専門です。
     ここでは最後に、それでは日本人にとっての幸福とは何か?を、
     あらためて問い直す中で、客観的「富」と主観的「幸福感」の間に、
     中庸としての「生活の豊かさ」や「良い生き方」があることを指摘します。
     荒川区の区民総幸福度やGNH、足を知る経済指標を紹介して終わる。
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いつもよりも長々と紹介したのは、それぞれ大切な内容で、
しかも全体として、すでにある方向性は見えているからです。
そのキーワードに、イリイチの「コンヴィヴィアル」が出てきたのも偶然ではないし、
ようやく彼の思想が日の目を見る時代になったのだろうと思うと、感慨もある。
ただし一般の人に理解されるのは、まだ先のことだろうと思うから、
今はともかく、方向性がぶれないように議論を進めていきたいと思います。
 
 
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