「千思万考」

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当代切っての教養人である、黒鉄ヒロシさんの「千思万考」を読みました。
「歴史で遊ぶ39のメッセージ」として、日本の歴史上の人物が39人、
いずれ劣らぬ活躍をした人たちを並べて、黒鉄さん独特の眼鏡で紹介します。
織田信長から始まって、斎藤道三豊臣秀吉徳川家康明智光秀武田信玄
上杉謙信真田幸村・・・等々、名だたる戦国武将がずらりと並びますが、
戦国時代に限らず、西郷隆盛大久保利通高杉晋作など明治を作った人々や、
東洲斎写楽や、伊能忠敬宮本武蔵など、広範囲な人を論評しています。

読んでいると、彼の幅広い知識が出過ぎることなく網羅されており、
学者の理論体系とは違った、好奇心の赴くままの教養の面白さを感じます。
と言っても、こうした知識や教養はクールに楽しんでいるにはいいにしても、
人生にとってどんな意味があるのかと考えると、少々物足りない気がしてくる。
というのは、面白いエピソード満載の割には、自分に繋がってこないのです。
純粋に教養として遊び心をくすぐりはするけど、本の前を離れてしまえば、
心には何も残らず、まして自分の人生の喜びに通じるものが何もない。

それはまあ、僕が小さい人物なので、歴史上の大人物から得られるものなど、
何もなくて当たり前と思えばそれまでなのですが、多くの優れた作家の表現は、
どんな希有の物語にも、読者が自分の生き方に即して感じるものを示してくれる。
そこがマスコミ切っての教養人の限界で、現代人の特徴でもある気がします。
元々がテレビ番組のコーナーから生まれた本で、各人物4ページの紹介なので、
ちょっと捻りが利いた見方で人物像を照らしてくれれば、それでいいのでしょう。
わかっちゃいるのですが、これが現代の教養知識の姿だと思うと寂しいのです。

望むものが多いから、ついつい批判的に文句を言ってしまいましたが、
夜寝る前に読む本としては、深く考えて眠られなくなるほどのこともなく、
フムフムと思いながら1話か2話を読んで眠るには、ちょうどいい具合です。
中には自分の教養の無さ故に、これを読んで初めて知ったこともあり、
例えばトーマス・ブレイク・グラバーのことは、知っているようで知らなかった、
数々のエピソードがさりげなくちりばめられていて、興味深いものでした。
こうした面白さは、さすが当代切っての教養人ならではのものでしょう。

さらに踏み込んで言うなら、ここに登場する人物はみな男なのですが、
無意識に持っている日本の男文化の何であるかが、全体として滲み出ており、
「面白きこともなき世を面白く」(高杉晋作)とか、
「かくすれば、かくなるものと知りながら、やむにやまれぬ大和魂」(吉田松陰
「我ことにおいて後悔をせず」(宮本武蔵)などの言葉が並ぶのです。
こうした先人の言葉の中で、僕が一つ選ぶとすれば勝海舟の次の言葉でしょう。
「行蔵は我に存す、毀誉は他人の主張、我に与らず我に関せずと存候」

いや、やっぱり面白い本だったのです。
 
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