「夏至の森」

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アメリカの代表的な、ファンタジー小説作家、
パトリシア・A・マキリップの新作「夏至の森」を読みました。
すでに世界幻想文学大賞ローカス賞などの賞を取っている作家なので、
力量があるのはわかっていたのですが、独特の世界が面白い。
日本でもファンタジー小説の分野は盛んで、よく売れているようですが、
僕は池上永一が好きなくらいで、それ以外はほとんど読みません。
それでも昔は、平井和正の「真幻魔大戦」なんか夢中で読みましたけどね。

さてこの「夏至の森」は、現代都会暮らしの若い女性を主人公にしながら、
彼女の故郷である田舎で、お爺ちゃんが死んだことから話が展開します。
すぐに田舎に帰るシルヴィアですが、深い森のある田舎には、
彼女がどうしても受け入れたくない、深刻な秘密があるのです。
今お婆ちゃんが住んでいる彼女の生家には、異界との境界があって、
昔からこの家では、境界を守るためのキルトが行われている。
だけどシルヴィア自身に、この異界の血が流れているらしいのです。

カタカナの登場人物が多くて、誰が何者だか覚えられないのですが、
巻頭ページに登場人物一覧があるので、時々それを見ながら読み進みます。
さらにこの小説では、章ごとに主人公が変わる珍しい手法なので、
ウッカリすると、誰の考えだか発言だかわからなくなって、
ところによっては、章題になっている人物名をまた巻頭で確認する。
こんな状態ですから、最初は読みにくい感じで進まなかったのですが、
実際に異界の者が登場するあたりからは、面白くて一気に読み進みました。

話の大元には、古い伝説が活かされているらしいのですが、
欧米の精霊や魔女の話は、僕には素養がないのでよくわからない。
だけど深い森を通して感じる、人間界とは違う何かの存在はわかるので、
素直に受け止めて読むと、森の奥の異界も次第に見えてくる。
お婆ちゃんとケルトの仲間は、縫い物によって結界を張っているけど、
実はお婆ちゃんの周囲にも、異界との交流をしている人たちだっていたのに、
そうした異界に通じる人たちは、ずっとそれを隠して暮らしていたのです。

ところがお爺ちゃんが亡くなって、シルヴィアが帰郷したときに、
遺言によって彼女が家の相続をするとなってから、事態が急に動き出します。
異界は本当に恐ろしい世界なのか、どうして愛し合う者がいるのか?
本当のことを言えなかった人たちが、従弟の失踪と取り替えっ子によって、
失踪した従弟を取り返そうと行動することから、話が急展開するのです。
読んでいるうちに、僕は僕なりに異界とは何かを考えさせられたし、
翻って人間とは何か、何をしているのかを考えさせられる作品でした。
 

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