「これからの日本社会と新しい福祉の方向」

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毎年この季節に行われている、高岡法科大学での富山県寄付講座ですが、
今年は「現代社会の抱える諸問題と展望」として、興味深い講義がありました。
その一つは、「これからの日本社会と新しい福祉の方向」と題して、
元環境事務次官の炭谷茂さんが、実践を通して気付かれたことのお話です。
炭谷さんは現在7つの大学で教えておられるほか、恩賜財団済生会理事長や、
日本ソーシャルインクルージョン推進会議代表などを務められています。

90分の講義が連続3回ありましたので、すべての内容は書けませんが、
現代社会の一番大きな問題を、孤立と貧困と捕らえるところから、
具体的な解決策を求めているのが、講演の主要な柱だったと思います。
特に興味深い話しだったのは、例えば釜ヶ崎での貧困ビジネスの事例で、
生活保護を受ける人から、基本手当の7万円と住宅補助の6万円を納めさせ、
狭いアパートに押し込めて、安上がりの食事を与えるお世話事業の話でしょう。

20人を集めて世話すれば、一人13万円から1万円だけ小遣いを渡して、
残る12万円はすべて横取りして、月の売り上げが240万円になる。
一年にして2880万円の売り上げで、経費は2割にも満たないそうですから、
お世話する事業者は、年収にして2千万円以上を稼ぐことになります。
あくどい商売とも言えますが、生活保護を受ける人たちは自力で何も出来ず、
このお世話係によって生活しているとすれば、非難ばかりも出来ません。

どうしてこんな歪んだ福祉になるのかと言えば、何でもお金で考えるからで、
解決策として有望視されている考え方に、ソーシャルインクルージョンがある。
これは「お金ばらまきの福祉」や「当事者の助けにならない社会的啓発」でなく、
仕事の在り方や価値観を見直す、住民の社会参加による生きがいの創出です。
こう話が進めば、僕らが地域活動で進めている「協働」の精神と同じで、
福祉もお金だけではダメで、地域の住民参加が大切になるって事でしょう。

具体的には、公的援助だけでもない、一般企業の利益追求だけでもない、
地域の多くの住民が参加するような社会的企業として、自立循環を目指す。
障害者も含めた弱者にお金だけを渡すのではなく、一緒に社会での役割を担い、
全体として誰もが社会生活が成り立つような、システムを作ることです。
炭谷さんはその有力な分野として、環境、福祉、農業、林業、手工業など、
多くの分野に可能性を見出されますが、これは将来の有望産業でもあるのです。

すなわちホームレスや精神障害者も含めて、僕らは同じ社会を生きる限り、
誰しもが社会の役に立っている充実感を持って、生きる権利があるわけです。
こうして聞いてみると、昨夜知った「境界性パーソナリティ障害」も含めて、
僕らはいつのまにか「普通」であることの範囲を狭めてしまっている気がします。
多少の障害は個性として受け入れ、助け合って生きられる社会を作ることで、
果てしなく膨れあがる福祉予算を、誰かに食い物にされる愚かさも減るでしょう。