「がんと命とセックスと医者」

イメージ 1
 
~「命」より「女」が大事だと思うことは、罪ですか?~
と刺激的なキャッチコピーの、見かけもピンクで派手な本ですが、
内容はとてもしっかりしていて、読み応えのあるものでした。
僕は元々「人間である前にオス」である感覚を持っているので、
同じように女だって、命がけでメスであって不思議はない。
ただ、そうした感覚を表立って言うことには、勇気が要るようで、
その辺の感性を扱った読み物だろう、と予想して読みました。

著者は、ゴルフジャーナリストの船越園子さんという方で、
本業が物書きですから、文章をまとめる表現能力は優れています。
前半は、彼女自身がガン告知を受けてから手術を終えるまでの、
突然の不安が、女でなくなることへの不安となっていく様子です。
手術によって、セックスを出来なくなるのではないかとの不安から、
命と女であることを天秤に掛けながら、それを言えない苦悩。
この苦悩は後半にいたって、自分の無知による妄想とわかりますが、
突然のガン告知によって、何が不安になるかがよくわかります。

告知を受けてから手術まで、あわただしく時間は過ぎて、
手術後に女としての「感じる」「潤う」「いく」がどうなるのか、
恥ずかしさも手伝って、どうしても聞けないまま手術を迎える。
ところが無事に手術が終わると、それまでの不安は吹っ飛び、
こうした女性の不安を書いておくことで、これから告知を受けて、
不安を覚える人たちに、何か役に立つのではないかと考え始めます。
そこで、自分が不安に思った「女であること」がどうなるのか、
自分の執刀医や、友人でもある医者にインタビューして確認する。

彼女自身のガンは、子宮頸癌だったので子宮はそのままですが、
仲間から紹介された女性の中には、全摘出をした女性もいて、
そうした人の排尿の苦闘なども知り、自分の無知に気が付いていく。
女を失うくらいなら死んだ方がましだと、簡単に思っていたけど、
手術をしなければ、患部の周辺から細胞が腐って機能しなくなり、
ついにはセックスどころか、自分が腐臭を放つようになる。
それでも手術がイヤかといえば、手術する選択をするだろうに、
肝心なことが何も聞けないまま、不安に陥っていたとわかるのです。

同時に著者は、インタビューを通して思わぬことを知ります。
産婦人科の医者の立場は弱く、患者を安心させたくても言えない、
うかつに安心させることを言って、そうならなかった場合に、
訴訟される可能性が高いのも、産婦人科の難しさだというのです。
昔であれば、患者を安心させる言葉で治療効果を高めていたものが、
今は間違った情報を提供したとして、訴訟される可能性さえある。
この信頼関係の喪失が、患者を不安にさせる原因かも知れない。
彼女の取材から、そんなことも浮き彫りになってきたのです。

医療技術は高度に進歩して、治療の可能性は高まっていながら、
患者の不安は、もしかして昔よりも増えているかも知れない。
この本を読んで、そんな現実を教えられた気もするのですが、
それを乗り越える糧は、やはり人間として信頼関係を築くことで、
科学技術や訴訟で、安心が成り立つものではないとわかります。
女であることも、子宮を中心とした性器だけに関わることではない、
脳や感性が深く関わって、感じ、潤い、いくのだそうですから、
セックスも、愛情があって初めて深まるものなのでしょう。

漠然とした感心から読み始めた本でしたが、読み終わってみて、
自分が疑問に思ったことを、とことん追求する大切さを知りました。
知れば知るほど、表面だけではわからない現実があることや、
思わぬ伏線を知って、世界を見る目まで変わってくる可能性がある。
この本は物語風で、読みやすいドキュメンタリーなのですが、
そこから覗いた医療の世界は、今の時代を象徴して見えました。
感じる、潤う、いける女であることも、大切にしたいですね!
 
 
船越園子さんの「がんと命とセックスと医者」は、↓こちらから購入できます。