「ジュゴン 海草帯からのメッセージ」

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海洋関係の出版物が多い、東海大学出版会から、
ジュゴンの生態を絵本で著した本が、出版されています。
元々は、タイのプーケットにある海洋生物センターで、
ジュゴンの研究と保護を、長年に渡って研究されてきた、
カンジャナ・アドュンヤヌコソンさんが、まとめた内容に、
女子学生が絵を描いた「キュートなジュゴン」が原型です。

今の日本では、沖縄の一部に辛うじて生き残っている、
絶滅危惧種として、また基地問題に揺れる沖縄の辺野古に、
ジュゴンが生息していることから、有名になりました。
だけど元々は、奄美九州あたりでも見かけられたと言われる、
実におとなしい、海洋性の草食で生きる哺乳動物なのです。
海に生きる哺乳動物としては、鯨やイルカが有名ですが、
草食性の哺乳類は、このジュゴンだけなのかも知れません。

元は絵本ですから、内容は可愛くわかりやすいのですが、
日本語版を作るにあたって、ジュゴンの知識がわかるように、
後半では、沖縄県自然保護課がまとめた資料が使われています。
したがって、子どもたちから学生社会人までが楽しく読めて、
いつのまにかジュゴンの知識が得られる、貴重な本です。

ジュゴンに関する僕らの知識と言えば、人魚伝説が有名ですが、
この本に出てくるのは、イメージとしての絵ばかりではなく、
写真としても、子どもを抱く母ジュゴンの姿が紹介されていて、
なるほど、女性のイメージに通じる印象があることを窺わせます。
世界各地の海には様々な人魚伝説があって、それらの多くは、
哀しいものが多いようですが、それは海の男の郷愁なのでしょう。

やさしくおとなしい生物ゆえに、人間による乱獲があって、
今では幻の生き物と言われるほど、出会うことも無いようです。
僕も海では、イルカやマンタなど多くの生き物に出会いましたが、
いまだにジュゴンには会ったことがないし、難しいでしょう。
ジュゴンが生きるには、浅瀬の広い海草地帯が必要ですが、
そうした場所はほとんどが埋め立てられて、無くなっており、
今また辺野古の海草地帯を、軍事基地に埋め立てる計画もある。

おとなしい生き物を次々に絶滅させる、人間の現代文明は、
やがて人間さえも、生き延びることを拒むのかも知れません。
そうならないために、僕らは声のない弱い生き物を守ることで、
命そのものを大切にする社会を築き、育てていきたいと思う。
そんな気持ちを、再確認させてくれる本でした。