「降りてゆく生き方」

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去年から、徐々に話題になっていた映画ですが、
ようやく富山でも上映されたので、見てきました。
マネー経済主義の価値観から、人の繋がりの価値観へ、
その点では、期待したとおりの映画でしたが、
具体的な内容としては、玉石混淆の感じがあって、
これじゃあちょっとなあ・・・って箇所も目立ちました。

例えば武田鉄也が、3億のおカネを拒否して、
一方では自分の全財産を離婚する妻に渡してしまう。
さらに自分の願いとして、一坪の土地を欲しいと言いますが、
その土地を何に使うのかと思えば、自分の墓を作るのです。
これじゃあまるで、何でもおカネ勘定する社会を否定したとたん、
その対岸にある、コツコツ暮らしを立てることまで否定して、
この映画こそ、理想に生きることは出来ないと言っているようです。

子どもたちが、熊の命を助けようとする運動から始まって、
熊守協会が市長選挙に立候補して、勝ってしまう展開などは、
「選挙に勝たないのはダメな証拠」と言っているみたい。
コツコツ参政運動や、市民の協働推進を進めている人たちに対し、
選挙で勝てなければ意味がない!と言っているようで、
どうもこの単純さには、意識が遅れている感じがするのです。
勝てば官軍で負ければ賊軍なのではなく、何を政策と訴えるのか、
そこのところを見失わなければ、政治参画の意味もわかるので、
一か八かではない、堅実な参画社会への展開を求められるのです。

まあそうは言っても、今までの拡大成長思想への決別自体は、
はっきりと宣言している点で、立派だとは思いますから、
今までそんなことを、考えたことがない人にとって見れば、
新鮮で驚くような発想に、新しいものを感じるのかも知れません。
いわばこれは、初心者向けの入門書みたいなもので、
実際に取り組んでいる人たちは、うまく選挙に勝てなくても、
運動が思うように大勢の人に認められなくても、挫けない。
なぜなら、それこそ一番やりたいことをやっているからです。

その意味では、生活費のための仕事を辞めるまではいいけど、
たいていの人は、その先に展望が見えないので一歩踏み出せない。
おカネを振り捨てて、さてどうあり得るかを示さないと、
多くの人は非現実的な夢物語と思うしかないのです。
これではまだ「阿弥陀堂便り」のような映画の方が魅力的で、
大きなことなど言わずに、自分を生きる姿が清くて美しい。
だけど今は、現実の欲望社会でどう生きるかが課題なのです。

成功者ではなく、例えば簡単に選挙に勝てなかったとしても挫けない、
一つの方向性を「生き方」とする人間の「在り様」を描けなかったのか?
あるいは、無一文になった男が何を糧に生きるのかを描けなかったのか?
そこにこの映画の、あまりにも残念な中途半端を感じてしまうのです。

とまあ、期待が大きかった分、残念に思うところも目立ちましたが、
こうした映画が、社会の新しい課題へ立ち向かう一歩となって欲しい!
そんな気持ちで、少しでも多くの人に見てほしいと思い、紹介しました。