「妖精の女王」

イメージ 1

ハリーポッターは、そのメジャー例なのでしょうが、
イギリスでは現在でも、魔法使いや妖精の話が盛んです。
文学の世界でも、アウトサイダーが大切にされるし、
大衆小説では、フェアリー・テイルが一つの分野になっている。
そんな雰囲気を、さりげなく使って書かれているのが、
メリッサ・マールの「妖精の女王」(相山夏奏・訳)でした。

主人公が十代の女学生で、彼女には大好きな彼氏もいる。
その二人の進展ぶりが丁寧に描かれているのは、この小説が、
ティーン・エイジャー向けの作品、だからだと思われます。
その点では、先に読んだ「19分間」と同じように、
若者の心の綾も描いてはいるのですが、視点は全く違っている。
この小説で核にあるのは、フェアリーの伝説なのです。

章節ごとに書かれている、様々な伝説からの引用の中に、
この作品全体を通してテーマとも言える、言い伝えがあります。
それはこんな言葉で、運命のように人々を縛っている。

「おまえがサマーキングになれば、彼女はサマークイーンになる。
 もちろんおまえの母、クーン・ベイラは、そのことをよく知っている。
 クイーン・ベイラの願い、それはおまえを“その女”から遠ざけることだ。
 そうすれば彼女の支配はこれからも続く。」

ところがこの小説は、古い言い伝えや今までの妖精物語とは少々違う。
明るい現代っ子として描かれた主人公の少女は、運命を受け入れて、
自分がサマークイーンになることを、やむを得ず認めるのですが、
だからといって、せっかく愛している人間の彼氏と別れるつもりはない。
そこで、今までの物語では考えられなかった解決策を取るのです。
この選択には、「なるほど!」と思わずにはいられませんでしたが、
実に合理的だし、みんなが幸せになる方法でもあったのです。

その詳細はここには書きませんが、こうした荒唐無稽の話が、
実はイングランドアイルランドスコットランドなどに、
昔からあった妖精物語の内容を、しっかり踏襲しているのが面白い。
古い言い伝えのフェアリーに対する教えを、挿入して脚色し
いかにも長い歴史を感じさせるのも、うまい手法だと思いました。
こうした妖精伝説は、古くはケルト文化から来るのでしょうか?
日本にも古い歴史があるけど、妖精的なものはないですね!

どちらかと言えば、中高生向けに書かれた小説でしょうが、
後半の展開などは、大人が読んでも十分に楽しめる内容でした。



メリッサ・マールの「妖精の女王」(相山夏奏・訳)は、↓こちらから。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4488544029?ie=UTF8&tag=isobehon-22