「農村で生きたい」 を見て

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すでに何年も前から、農的暮らしをしたい若者は増えていますが、
日本では、農家の者でないと、農を始めるのは難しい制度があります。
農地は税金が安いこともあって、簡単には売り買いは出来ないし、
借りて使おうと思っても、農業委員会の許可がいることになっている。
しかも借りられる田畑は、何か問題があるから使われていないような、
あまり良い農地ではないことが多いから、初心者には難しかったりする。

政府の農業支援策ときたら、大規模農家ばかりに目が向いていて、
これから細々とでも農業を始めたい若者には、何の手助けもありません。
さらに実際に挑戦してみると、農村暮らしは地域の取り決めが多く、
自分の裁量で何かやる前に、地域のコミュニティに馴染む必要がある。
そんな地域の行事の中には、若者には感心のないものも多いのに、
その地域で暮らすには、その地域の伝統を大切にするよう求められる。

これだけ障害だらけの農的生活を、全部我慢して始めるとしても、
収穫を得て採算が取れるまでの期間、暮らしていく資金がいります。
なんとか生産できたとして、売るルートも考えなくてはならず、
そして得られる収入は、一般的なサラリーマンよりかなり低いのです。
つまりこの国の社会や行政は、口先では農業が大切だと言いながら、
新しい若い人に、農業をやらせる気は、さらさら無いのでしょう。

それでも、僕の周りを見ていても、食物を自給したい若者は増えており、
願わくば農業で、生計を立てて暮らしたい人は増えてきているのです。

昨日の夕方にも、NHK教育の日曜フォーラム「農村で生きたい」では、
小川全夫(山口大学教授)、榊田みどり(農業評論家)、宮川泰夫(NHK)、
大桃美代子(タレント)、蔦谷栄一(農林中金総合研究所)の5人による、
パネルディスカッションがあって、この問題を話し合っていました。
その話の中でも、農家ではない人の就農について、多くの意見が出され、
いくつもの指摘があった中で、大切に思われたものをあげてみましょう。

その一番は、若者を受け入れてノウハウを教える制度の必要性です。
都会へ行く若者は、特別なノウハウがなくても仕事に就けますが、
農業をしたい若者は、ノウハウがないと何をして良いかもわかりません。
しかも農業学校を出ていたとしても、農地を借りることさえ難しい。
そうした農業技術以外のことまでサポートするシステムが必要なのです。
受け入れ態勢さえあれば、農的生活をしたい若者は増えているのです。

そしてもう一つは、生活面でも相談に乗れる体制を用意しておくこと。
旧来の自治会長だったりすると、地域の利益を優先して考えるから、
新人の些細な悩みや相談事には、必ずしも適当な相談者にはなれません。
むしろ、様々なことに精通していながら現役を退いているような、
責任も軽くて、何でも親身に相談にのれる人望のある人が良いでしょう。
就農希望者が女性であれば、女性の相談役も欲しいところですね。

これだけ準備が出来れば、中山間地にも若者はやってくるのに、
現実には、たったこれだけのことが出来ていないと言うことです。

さらに僕としてはもう一つ、行政に考えて欲しいことがあります。
それは現行農政に見られるような、経済拡大だけを狙った援助でない、
もっと包括的に、中山間地の生活環境を守るための政策的援助です。
大規模農家に所得保障するよりも、新規就農者や中山間地生活者など、
大きな収入は期待できなくても、地域の生活圏を守ってくれる人たちに、
もっと公的な援助があれば、若者はかならず移住していくでしょう。

今は行き場なく、人造物に取り囲まれた都会に埋もれながら、
大自然の豊かさの中で暮らすことを夢見る若者は、多いのです。