「天使の耳の物語」

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田舎暮らしの今では、もう見ることもないのですが、
東京で暮らしていた頃は、小劇団の公演が好きでした。
東京キッドブラザースなんて、よく見に行ったけど、
今はもう解散してしまっているようですね。
そのころ見た演劇集団「キャラメルボックス」代表で、
演出家でもある成井豊が、小説を書いていると知り
気になったので、「天使の耳の物語」を読んでみました。

期待通りに想像力豊かで、楽しいお話なのですが、
学校の先生として、生真面目に働いてきたお父さんと、
その家族の関係を描いていて、暖かい気持ちが沸きました。
事故で突然“心の声”が聞こえるようになったお父さんは、
家族から「頑固じじい」とか「クソオヤジ」とか思われ、
妻と二人の子どもから、爪弾きにされているのを知る。

それさえ、彼にはとてもショックなのですが、それ以上に、
自分が「家族のことを思っていない」と思われていると知り、
「そんなはずはない」と思いながらも反省するのです。
子どもたちが小学生になった頃からは、仕事が忙しくなり。
家族との関係が希薄になったとは、確かだったからです。
しかも“心の声”が聞こえるようになってしまうと、
家族が自分に秘密をもっていると知って、またショック!

息子はおとなしく大学へ通っていると思ったら、
友人とバンドを組んで、ライブハウスで公演している。
娘は知らない間にアルバイトを始めて、恋までしている。
そして妻は、心を読まれたくないからと距離を持つ。
こんな筈ではなかったと思うお父さんは、じっとできずに、
家族の絆を取り戻そうとして、俄然奮闘するのですが、
そこで娘が、事件に巻き込まれているのを知って大活躍。

とこんなドタバタで、一見荒唐無稽な内容なのですが、
黙っていてはわからない、お父さんの家族への思いが、
心が読める事件を通して、爆発するのが面白い。
たぶん今でも多くのお父さんたちは、仕事中心生活で、
家族のことは、元気であれば口出ししないのがいいと思い、
小言くらいしか言わない人が多いのではないでしょうか。
だけどそれでは、愛情も育つはずがないのです。

家族が一緒になって何かすることで、愛情も育まれる。
それは子どもたちにとって見れば、絶対に必要なことで、
たっぷりと手間暇時間を掛けないとできないことです。
ちょうどこの前に読んだ「19分間」も同じように、
現代の、忙しすぎる親の問題が大きく影を落としており、
人は何を大切に生きるのかを、あらためて問うている。

どうしてだかこのところ、子育てとか家族だとか、
そんな作品ばかり目に付くけど、意図してはいません。
僕個人よりも世の中の流れとして、家族や子育てが、
あらためて、見直されてきているのだろうと思います。
それはいいことだし、大切なことなのでしょうね。



成井豊の「天使の耳の物語」は、↓こちらから。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4591112543?ie=UTF8&tag=isobehon-22