「向上心について」

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僕が心からる敬愛する哲学者の一人、
フランスのベルナール・スティグレールが、
10歳以上の子供たちと、その親たちに対して、
講演を行ったものが、一冊の本になりました。
原題は「 Des pieds et des mains 」とあって、
直訳すれば「足も手も使って」となるそうですが、
これはフランス語の慣用句として使われており、
「全力を尽くして奮闘する」の意味があるそうです。

読み進めてみると、さすがに子供向けの話なので、
うっかりすれば誤解されそうな、内容や言い回しを、
丁寧に説明しながら話を進めるので、もどかしい。
だけど、人の本質である“知りたがる”ことについて、
あるいは“困難に挑戦する”ことの楽しさについて、
人類の歴史にまで遡りながら、未来を話しているのです。
「人間とは何か?」といったことを、さりげなく話す。

あまりにもさりげなく話されるけど、要点は押さえられ、
人間は挑戦することで生き延びてきた歴史の解説と共に、
現代は大きな転換期に入っていることも、示唆します。
限りなく便利になり、生きることに怠惰になった人類は、
退屈し、努力する喜びを失い、親子の絆が損なわれる。
親の奮闘と一体感を持って成長する時期を、損なっている。
この結果、子どもたちは全力で奮闘する喜びを知らずに、
最初から退屈で、疲れた人生を歩み始めてしまう。

この問題点は、講演の後の「質問と答え」で明瞭になり、
彼は、現代のこうした現状を作り出した大きな要因として、
子ども時代に見るテレビの影響を取り上げています。
ひたすら商品を売るために、子どもをターゲットとして、
自分で考えるよりも商品をほしがらせるCMを流し続ける。
すると子どもたちは、無意識のうちにその影響を受けて、
自らの欲望を努力と工夫で達成することをしなくなり、
ただおカネによって消費するだけの人間になってしまう。

これは人間としての存在意味さえも希薄にしてしまう、
恐ろしい事態なのに、多くの人はまだ気にしていません。
スティグレールは、この事態が進むとどうなるかを、
「脳はテレビでCMを見るくらいしかできなくなっていく」
と指摘して、子どもたちがテレビばかり見ていると、
やがて社会そのものが崩壊に向かうと予見しているのです。

フランス大手テレビ局TF1の社長は、あるインタビューで、
「TF1の番組の目的は、
 視聴者の脳が広告を受け入れやすい状態にすること」
と明快に語り、さらには、
「番組の内容はCMとCMの間にあって、
 CMを受け入れやすいように、リラックスさせること」
とまで語っていることを、忘れてはならないでしょう。

子どもたち向けに、やさしく「人間とは何か」を話しながら、
気がつけば、彼が常に警鐘し続けている現代文明の問題に至り、
それをどのように克服するのかの、ヒントまで示している。
この本は、大人が読んでも十分に深い内容ではありますが、
できれば、初めて人生に疑問や懐疑を感じた子どもたちに、
ぜひ一度読んでみてもらいたい!と思わずにはいられません。

スティングレールと池田晶子さんの対談なんか、
聞いてみたかったなあ・・・・・



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