「君の涙ドナウに流れ」

イメージ 1

ソビエト連邦が崩壊する遙か以前、
プラハの春よりもさらに12年前の1956年、
東欧ハンガリーで起きた、市民革命を描いた映画です。
ほとんど史実に基づいて書かれた脚本とのことですが、
史実そのものが、誰にも真相のわからない部分があって、
市民と特務警察が対峙して、突然発砲が始まるところなど、
いったい誰が最初に発砲始めたか、わからないままです。

映画のストーリーを盛り上げるためか、
学生集会に顔を出した水球の代表選手カルチが、
活動家の女性に恋をして、自分も活動家になっていく。
だけどオリンピックで活躍することを夢見てきたカルチに、
友人と母親は、学生運動には関わるな!と忠告する。
ただハンガリー市民としての誇りを重んじる祖父は、
「抵抗しなければならないときがある」と言ってくれる。

史実に従って、1956年10月23日、
学生たちのデモが、労働者も加わって大規模になり、
夜になって、特殊警察と衝突するところから始まります。
市民の要求は受け容れられて、政権交代がおきると、
特殊警察が廃止され、市民革命は成功したかに見えました。
ところが11月4日の、ソ連軍は突如ブダペストへ侵攻する。
この10日間に何があったのか?市民革命とは何か?
強権力による蹂躙とは何かを、この映画は描いています。

カルチは革命が成功したと信じて、水球チームに復帰し、
本来の夢だった、メルボルン・オリンピックに出場します。
ところがその遠征中に、自国がソ連軍に侵略されたと知る。
だけどソ連はあまりにも強大な権力を持つ国なので、
逆らう術もなく、仲間はアメリカへの亡命を考える。
絶望に打ちひしがれながら、祖国を思って闘う選手たち。
そしてこの試合で、ハンガリー・チームは奮起善戦し、
優勝候補だったソ連チームを破り、金メダルを取るのです。

その試合の最中に、カルチが殴られて流血する事件が起きる。
巨大なオリンピック水球場で、沸き起こるブーイングは、
ソ連を非難し、ハンガリーを応援する人たちのものでした。
しかし、そうして水球の試合をしているあいだにも、
ブダペストでは多くの学生や市民が殺されていたのです。
カルチが恋をした女学生も、敵の手にとらえられて、
仲間の名前を教えないまま、処刑場へ連れて行かれます。
あまりにも大きな痛手が、市民を絶望に陥れたのです。

ハンガリー映画史上、最高の観客動員数を誇るこの作品は、
水球シーンでは本物のオリンピック代表選手を使い、
戦車も武器も衣装も、当時の本物を使って撮影したそうです。
原案も脚本も、実際にハンガリー動乱を知る人たちで、
ゴダ監督が、ハリウッド気鋭の女性だというのも興味深い。
いかに正しい戦いとしても、武器は悲惨さしかもたらさない。
そんな事実を、あらためて思い知らされる作品でした。



クリスティナ・ゴダ監督の「君の涙ドナウに流れ」は、(↓)こちらから。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B0017UE0PS?ie=UTF8&tag=isobehon-22