「ギンイロノウタ」

イメージ 1

最近の若い人たちは、どんな小説を書くのか?
と気になっていたところへ、先月何かの書評で、
村田沙耶香という、若い作家の書評が出ていました。
どんな書評だったか、よく覚えてはいないのですが、
気になって図書館に頼んで、読んでみました。

「ひかりのあしおと」と「ギンイロノウタ」
この2本の中編小説を収めた、新潮社の出版本です。
どちらも、小学生だった頃に友達ともうまく遊べない、
成熟の遅い女子の心象風景が、異様に膨らんでいく。
一人っ子で、母親ともうまく愛情関係を結べずに、
閉ざされた心の中で、出口を求める熱が膨らんでいく。

「ひかりのあしおと」は、人工的なニュータウンで、
謎の怪人に掴まり、公衆トイレに閉じこめられた記憶から、
光に対して恐怖を抱くようになった、女の子の物語。
中学高校と、いるのかいないのかわからない岩として過ごし、
大学生になって、ようやく付き合う男性が出来たけど、
自分のトラウマが、思い掛けない事態を引き起こしてしまう。

「ギンイロノウタ」は、都心のオフィス街暮らしで、
自分の母が父に対して、びくびくしているのが原因なのか、
何でも人目を気にしすぎて、うまく行かない女の子の物語。
暗い押入の中で、広告から切り抜いた目に囲まれて、
銀色の棒を相手に、自分を慰める毎日が続くのですが、
あるときその棒を学校で取り上げられてから、少しずつ、
精神状態がおかしくなっていく様子が、描かれている。

どちらもひどく孤独で、傷つきやすく、不器用です。
自分にどんな価値があるかも見出せないし、探せもしない。
女であることに価値があるなら、それを実感したいと思い、
男に身を任せても、何もかもが思うようにはいってくれない。
表現が優れた文章や描写だとは、思われないのに、
たしかにこの異様な感じは、読者としての僕を引き込む。

不思議と外見の整った、現代の若い女性たちを見ていると、
彼女たちは、宝物が服を着て歩いているように思えてしまう。
だけどその内側で抱え込んでいる、自分への自信のなさは、
たしかに日常生活の中で、垣間見ることのあるものです。
この小説は、そうした感覚をデフォルメしているのでしょう。
不器用に閉じ籠もる感覚が、よく描かれた二作品でした。


村田沙耶香の「ギンイロノウタ」は、(↓)こちらから。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4103100710?ie=UTF8&tag=isobehon-22