「グリーン・サークル事件」

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最近はあまり面白いと思える小説に巡り会わないので、
何か確実に満足出来るような長編小説が読みたいところでした。
そこへイギリス、アメリカで数々の賞を取った推理小説作家、
エリック・アンブラーの「グリーン・サークル事件」が、
藤倉秀彦さんの翻訳で出版されたので読んでみました。

舞台は1970年頃の中東、シリア、レバノン、ヨルダンという、
日本人には馴染みの薄い地域なので、最初は難しく思われます。
ところがある程度読み進んで、全体の事情がわかってくると、
パレスチナとアラブの根深い対立の、歴史的当時が見えてきます。
かならずしもどちら側でもない人間が、武器製造に巻き込まれ、
ついには大きなテロ行為に関わってしまう緊迫感が伝わってくる。

本の帯には「ミュンヘン事件を予見した傑作」と書かれていて、
パレスチナ問題が、これ以前もこの後も深刻なことを示しています。
日本では、ここまで複雑なパレスチナ・テロの実体は見えにくいし、
まして様々な情報機関による諜報活動など、実感が難しい。
だけど先日は、大阪の教育委員会でも盗聴行為が明るみに出て、
僕らの日常にも諜報活動があり得ることを、証明して見せました。

まして生き残りを賭けるパレスチナとアラブの状況を思えば、
この小説に出てくるような事件は、十分に考えられるし、
だからこそ「ミュンヘン事件を予見」とまで言われたのでしょう。
次々に攻撃を仕掛けるテロリストの武器は、どう供給されるのか?
そんな興味からだけ見ても、この小説にはリアル感があるし、
テロリストの巧妙な巻き込み方は、恐ろしさが伝わってきます。

残忍なテロ指導者による、一つの大がかりなテロ攻撃が、
どのように準備され、なぜ巻き込まれる人がいて、実現するのか?
そうしたことが、脅迫の手口や周到な計画と共に明らかにされていく。
当時の時代背景や、日本にも伝えられたニュースなどを思い、
歴史を再検証する感じで読むと、物語はさらに興味深くなるのです。
そして少しずつ明らかになる全容と、主人公の誤算、そして結末。

読み終えると、いかにもイギリスの冒険諜報小説の本流にあって、
イアン・フレミングの007シリーズを思わせる面白さでした。
遙か辺境の世界情勢に対して、現実的な好奇心を持って見つめ、
そこに一つのフィクションを作り上げて、もう一度現実を再考する。
いかにもイギリス人好みの、大人の遊び心が踊っていました。

秋の夜長に読むといい、おとなの男性にお勧めの一冊です。


エリック・アンブラーの「グリーン・サークル事件」は(↓)こちらから。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4488137032?ie=UTF8&tag=isobehon-22