イラク派兵に違憲判断!

自衛隊イラク派兵に対して、日本各地で派兵差止訴訟が起きていましたが、
今回は名古屋高裁において、これが違憲であると、はっきり司法判断が下されました。
今までの通例であれば、高等裁判所でこのような行政に対する違憲判断が出た場合、
行政側が最高裁判所へ上告することで、逆転敗訴して合憲が確定されるのが常でしたが、
今回は青山邦夫裁判長の判断によって、訴訟自体は請求を退けたので国は上告できず、
さらに原告団も上告しないので、これが司法判断として確定した珍しい形です。
平和を願うこの国の人々の願いは、ここに一つの成果を築いたと言っていいでしょう。
原告団による「声明」が出ていますので、その内容を転載しておきます。

(以下転載)

============ 声明 ================

第1 【画期的な違憲判決である】
2008年4月17日、名古屋高等裁判所民事第3部(青山邦夫裁判長、坪井宣幸裁判官、
上杉英司裁判官)は、自衛隊イラクへの派兵差し止めを求めた事件(名古屋高裁平成
18年(ネ)第499号他)の判決において、「自衛隊の活動、特に航空自衛隊イラク
で現在行っている米兵等の輸送活動は、他国による武力行使と一体化したものであり、
イラク特措法2条2項、同3項、かつ憲法9条1項に違反する」との判断を下した。
 加えて、判決では、平和的生存権は全ての基本的人権の基礎にあってその享受を可能な
らしめる基底的権利であるとし、単に憲法の基本的精神や理念を表明したにとどまるもの
ではないとし、平和的生存権の具体的権利性を正面から認めた。
 判決は、理由中の判断で、自衛隊イラクへ派兵された後の4年にわたって控訴人らが
主張してきたイラク戦争の実態と自衛隊イラク戦争の中でどのような役割を果たしてい
るかを証拠を踏まえて詳細な認定を行い、委託特措法及び憲法9条との適合性を検討した。
その結果、正面から自衛隊イラクでの活動が違憲であるとの司法判断を下したものである。
 この違憲判決は、日本国憲法制定以来、日本国憲法の根本原理である平和主義の意味を
正確に捉え、それを政府の行為に適用したもので、憲政史上最も優れた、画期的な判決で
あると評価できる。判決は、結論として控訴人の請求を退けたものの、原告らを始め日本国
憲法の平和主義及び憲法9条の価値を信じ、司法に違憲の政府の行為の統制を求めた全ての
人々にとって、極めて価値の高い実質的な勝訴判決と評価できるものである。

第2 【自衛隊イラク派兵差し止め訴訟の意義】
 1990年の湾岸戦争への自衛隊掃海艇派遣以来、自衛隊の海外活動が次々に拡大され、
その間、全国各地で絶えることなく自衛隊の海外派兵が違憲であるとする訴えを市民は
提起し続けてきた。しかし、裁判所は一貫して司法判断を避け、門前払いの判決を示し、
憲法判断に踏み込もうとしなかった。
 しかし、今回のイラクへの自衛隊の派兵は、これまでの海外派兵とは質的に大きく異なる
ものであった。第一は、アメリカ、ブッシュ政権が引き起こしたイラク戦争が明らかに違法
侵略戦争であり、自衛隊イラク派兵はその違法な侵略戦争に加担するものであったと
いうことである。第二は、自衛隊イラク派兵は、日本国憲法下においてはじめて「戦闘
地域」に自衛隊が展開し、米軍の武力行使と一体化する軍事活動を行ったことであり、これ
は日本がイラク戦争に実質的に参戦したことを意味しているという点である。この裁判は、
このような自衛隊イラク派兵が、日本国憲法9条に違反し、日本国憲法が全世界の国民に
保障している平和的生存権を侵害していると原告らが日本政府を相手に訴えたものである。
 日本政府は国会でもイラク自衛隊が行っている活動の詳細を明らかにせず、実際には
参戦と評価できる活動をしている事実を覆い隠し、本訴訟においても事実関係については
全く認否すら行わない異常な態度を最後まで貫いた。国民には秘密の内に憲法違反の自衛隊
は兵の既成事実を積み重ねようとする許しがたい態度である。
 私たちはこの裁判で、自衛隊の活動の実態を明らかにするとともに、日本政府が国民を
欺いたままイラク戦争に参戦していることを主張、立証してきた。そしてまた、日本政府が
立法府にも国民にも情報を開示しないまま、米軍と海外で戦争をし続ける国作りを着々と
進めている現実の危険性を繰り返し主張してきた。そして、今、行政府のこの暴走を食い
止めるのは、憲法を守る最後の砦としての役割が課せられている司法府の責任であることを
強く主張してきた。

第3 【憲法と良心にしたがった歴史的判決】
 本日の高裁民事3部の判決は、原告の主張を正面から受け止め、イラク派兵が持つ歴史的
な問題点を正確に理解し、憲法を守る裁判所の役割から逃げることなく、憲法判断を行った。
 判決は、憲法9条の規範的意味を正確に示した上で、航空自衛隊が現実に行っている米兵
の輸送活動を、憲法9条が禁止する「武力行使」と認定し、明らかに憲法に違反していると
判断した。
 我が国の憲法訴訟は、違憲判断消極主義と評価されるような政府・国会の判断にたいする
過剰な謙抑により、憲法の規範性が骨抜きにされ続け解釈改憲とすら評される事態を進めて
きた。自衛隊違憲性については、過去に長沼ナイキ基地訴訟第一審判決(札幌地裁昭48・
9・7)で、自衛隊違憲とした判断が唯一見られるだけで、それ以後、自衛隊及びその
活動の違憲性を正面から判断した判決は一つとして見られない。ましてや、高裁段階の判断
としては、本日の名古屋高裁民事第3部の判決が戦後唯一のものである。憲法と良心に従い、
憲法を守り、平和と人権を守るという裁判所の役割を認識し、勇気をもって裁判官の職責を
全うした名古屋高裁民事第3部の裁判官に敬意を表するものである。
 本判決は、我が国の憲法裁判史上、高く評価される歴史的判決として長く記憶されること
になるであろう。
 イラクへの自衛隊派遣を違憲とした本判決は、現在、議論されている自衛隊の海外派兵を
前提とする様々な活動について、憲法違反に該当しないかどうかについての慎重な審議を
要求することになる。憲法との緊張関係を無視して違憲の既成事実を積み重ねるために
イラク特措法を制定し、国会での審議すら実質上無視するような政府の姿勢は厳しく断罪
されなければならない。この判決を機に自衛隊の存在とその活動について憲法の立場から
厳しくチェックがなされなければならない。
 また、この判決は、この裁判の原告となった3000名を越える市民(全国の同種訴訟に
立ち上がった5000名を越える市民)が声を上げ続けた結果、生み出されたものである。
日本と世界の市民の平和を希求する思いがこの判決を生み出したのである。
 さらに、日本国憲法、とりわけ憲法9条がなければ出されることのない判決である。この
判決は、平和を希求する市民が日本の平和憲法の力を活かした結果生み出したものである。
 日本国憲法の価値を示す画期的な判決として、この判決を平和を願う全ての市民とともに
喜びたい。

第4 【自衛隊イラクからの撤兵を】
 我が国は三権分立を統治原理とし、かつ法の支配を統治原理としている立憲民主主義国家
である。三権の一つであり、かつ高等裁判所が下した司法判断は、法の支配の下では最大限
尊重されるべきである。行政府は、立憲民主主義国家の統治機関として、自衛隊イラク
派兵が違憲であると示したこの司法判断に従う憲政上の義務がある。
 私たちは、今日このときから、この違憲判決を力に、自衛隊イラクからの撤退を求める
新たな行動を開始するとともに、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのない
やうにすることを決意」し、「全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに
生存する権利を有することを確認」した日本国憲法の理念を実現するための行動を続ける
ものである。

                              2008年4月17日
                          自衛隊イラク派兵差止訴訟の会
                         自衛隊イラク派兵差止訴訟弁護団