地域農業・農村のゆくえ

イメージ 1

砺波地域職業訓練センターというところで、
砺波散村地域研究所・富山地学会 合同例会が催され、
そこで興味深い講演があるのを知って、行ってきました。
富山大学極東地域研究センター教授の酒井富夫さんによる、
「グローバリゼーション下の地域農業・農村のゆくえ」
お役所の人が、どのような考えかを知りたかったのです。

なかなかバランスの取れた知識をお持ちのようで、
まず19世紀に始まった資本主義の歴史から解説されました。
そして資本主義の姿が大きく変わった、三度の経験を指摘します。
一度目は19世紀末の経済恐慌で、ここから株式会社が始まり、
二度目は20世紀半ばの世界大恐慌で、国家の経済介入が始まる。
いわゆる財政出動による、大がかりな計画経済の始まりです。
この状態は第二次世界大戦の後も、しばらくは続いていました。

ところが、1971年にドルの金本位制が廃止になり、
1973年にはオイルショックと呼ばれる激しい高騰が起きて、
ここから資本主義は、三度目の大きな変革に突入します。
これが新自由主義と呼ばれる、グローバリゼーションの始まりです。
それまでの経済構造は大きく変わって、多くの規制緩和が進み、
食管法は廃止されて、農産物の価格は一気に市場化してしまいました。
その結果、食糧自給率は40%を切るまでになってしまったのです。

日本全体としては、ピーク時に1200万トン生産していた米は、
今では900万トンにまで減らされて、野菜や家畜の餌は輸入です。
こんな状態で安全な食料の確保が難しいことは、誰でも知っている。
不利地域とされる中山間地域には、助成金も出るようになりましたが、
農業経営を安定化させる力はないし、後継者の見通しもないのです。
このままでは、農業の将来に見通しが立たないと言うお話でした。

それでは何か、将来に向けて希望となる材料はないのか?
酒井先生はその実例として、集落営農の活性化に期待されている。

地域にいる多様な才能を寄せ集めて、新しい農業経営を目指し、
特に富山県では、米にばかり頼らない生産物の多様化を進めること。
安定した「兼業」「稲作」「年金」で成り立っていた富山県の農業は、
この三要素共に、将来は不安定要因になると思われるので、
今から危機意識を持って、新しい農業経営に移行しなければならない。
・・・と、ここまでは、新しい要素がなかなか見えてきませんでした。

ところがここで、彼は多様な経営理念について話しをされた。
その中で、自立型の「自然体」と農協型の「経営体」の具体例が面白い。
農協型「経営体」は、政府の進める売上を伸ばして収益を拡大する方針で、
生産力を伸ばすために、集落営農の統合再編やリーダーの育成をして、
専従者を増やして後継者も育てていこうとする、収益優先の手法です。
それに対して自立型「自然体」は、所得を増やすことを目的とせず、
生涯気持ちよく農業に携わりながら生きていければいいとするもので、
ワークシェアリング的に働きながら、住民の生き方を大切にするのです。

なんと、これはもう僕らの自然農の考え方と同じではないですか!
今まで僕は、何度「生き方としての自然農」が大切だと言ってきたことか。
周囲の人たちにはなかなか理解してもらえなかった、こうした理念が、
現代知性の最先端にいて、研究を重ねている人は気付いていたのです。
ただし、農協型の「経営体」としての集落実例は増えてきてはいても、
自立型「自然体」として集落がまとまることは、まだ難しいのが現状で、
富山県内の実例としては、土遊野しか挙げられないのが残念でした。

それでも一つ、明るい未来に向けての道標は見えてきた気がします。
僕はまず自分から!と思って、自給的に自然農を始めているのですが、
こうした試みは農業の異端なのではなく、将来の姿なのだと確信しました。
自然農が正しくて、集約農業が間違っていると言うのではないのですよ!
自らの生き方を考えた、自由で多様な農業スタイルが共生すればいい。
そんな中で、個々人や家族が、自由に自分の生き方を決めたらいいのです。

公演が終わったあとも、しばらく先生と話しをすることができました。
この地方の人はなかなか古い価値観から抜け出そうとしないことを嘆くと、
先生も、今のままでは続かなくなる農業に対して危機感が無さ過ぎる!
とこのおだやかな砺波平野の農村の、将来を心配されていました。
会場からの帰り道は、今年一番多い雪が深々と降り続いていおりました。



酒井富夫さんが参加されている本に、こんなのがありました。
(↓)「論争・近未来の日本農業―グローバルに考えローカルに実践する」
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4540980130?ie=UTF8&tag=isobehon-22