「運は数学にまかせなさい」

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ジェフリー・S・ローゼンタール著の「運は数学にまかせなさい」は、
副題が「確率・統計に学ぶ処世術」として、早川書房から出ています。
今の社会を、と言うよりも(世界の姿)を理解しようとすれば、
科学的以上に数学的な理解が、何かをはっきりさせてくれる気がする。
そんな思いで読みましたら、これが確かに処世術としても面白いのです!

最初から第5章まで、何故カジノは儲かるのか?、殺人者の傾向など、
これらの話は既に気付いていて、普段から自分に戒めている内容でした。
いくらか読むのを鬱陶しく思いながら、引っかかりもなく読み進み、
第6章の「決断の下し方」から、人間的な味わいが面白くなってきます。

たとえば、人は何故正しいことや善いことをしようとするのか?
選挙で理想の人物に政治家になってもらいたいと思っても、多数決だから、
その行動を取る人が一人しかいなければ、煩わしいばかりで効果がない。
そこで、(やっても仕方がないからやらない)選択をしがちですが、
彼は、「自分がどう行動するかで他の人にとって欲しい行動が決まる」
と言ったサルトルの発言を、正しいのではないか!と引用します。

そして保険に入るか入らないか?、医薬品の効果を信じるか信じないか?
などと日常的に起きてくる迷いに対して、数学的な判断を紹介することで、
より安心できる決断の材料を教えてくれている、と言っていいでしょう。
さらには、世論調査の名の下に行われる情報操作や不確実性の話とか、
選挙や住民投票における、有権者の微妙な心理の働き方なども面白い。

多くの人は投票経過や予測を検討して判断するので、発表の方法次第では、
人を誤った判断へと導いてしまう確率が高くなる話は、納得するものでした。
さらに興味を引くのは条件付き確率論で、現実社会ではこれが重要でしょう。
僕らは日々刻々、ちょっとした選択による効果の世界で生きているわけで、
何かを予測しようとすれば、この条件を把握することが大切になる。
だけど条件自体があまりにも多様で不確定なので、把握なんて出来ない。

こんなに不確定な世界でいながら、確率を知っていれば救われることもあり、
たとえば「モンティ・ホール」問題など、知らない人はぜひ一度読むといい。
数学的トリックによる誤魔化しを見破ることは、騙されない一歩でしょう。
また迷惑メールをどのように防ぐかも、確率論の延長にあると知れば、
その防止ソフトによる有効な戦い方も、自然と見えてくると言うものです。

全体として、実用的な具体例を豊富に取り入れて話を進めてあるのですが、
最新の量子力学が「自然界は最も根本的なレベルで本来ランダムである」
と教えていることによって、僕らはあらためてサルトルの教えに戻る。
つまり人は、確率で生きるのではなく、どうありたいかで生きる!ってこと。
まわり回ってそれを知ることが、この本の一番の内容だった気がします。